平成29年度「全国学力・学習状況調査(通称:全国学力テスト、学テ)の結果が発表された。

http://www.nier.go.jp/17chousakekkahoukoku/index.html

 

概要を見る限り、全体の傾向としては大きな変化は感じられない。個人的には、子供たちの自己肯定感が若干ではあるが向上していることがうれしい。一方で、今回の調査結果について世間の注目を集めているのは、上位と下位の正答率の差が縮まる傾向にあること、そして部活時間と正答率の関係である。

 

正答率上位の県と下位の県の差が縮まり、学力の底上げが進んでいるのはいいこと。教育行政、現場の教職員、そして保護者の日々の努力の賜だろう。

 

また、昨今、「ブラック部活」など、部活動によるさまざま弊害が注目される中、今回の調査では中学生の部活時間と正答率のクロス集計を行ったことはタイムリーだった。

 

端的に結果を表現すれば「平日の部活時間が平均1〜2時間の生徒が最も正答率が高い」。

 

選択肢は、「3時間以上」「2時間以上、3時間より少ない」「1時間以上、2時間より少ない」「30分以上、1時間より少ない」「30分より少ない」「全くしない」の6つ。割合は順に、11.4%、43.3%、29.0%、3.4%、1.0%、11.7%だった。

 

6つをそれぞれ選んだ生徒の正答率を棒グラフにすると、国語AB・数学ABのすべてにおいて、「1時間以上、2時間より少ない」の正答率を頂点とした山型のグラフができた。

 

 

全国学力テストは、小6と中3を対象に行われる。算数・数学と国語の2教科について、主に知識量を問うA問題と知識の活用力を問うB問題の正答率を調べる。そのほか、睡眠、通塾、スマホなどの使用状況など、「質問紙」による学習意欲や学習環境についての調査も行っている。その中で、今回は部活の時間についても聞き、正答率との相関を調べた。

 

平日平均の部活の時間が1〜2時間と聞いて、少なめと感じた人も多いのではないだろうか。しかしここでは「1日当たりの平均」を尋ねているのであって、「1日2時間以上」を1週間の部活時間にすると、10時間以上ということになる。

 

部活が週3日放課後のみだとすれば1日当たり3.3時間以上ということ。15時から部活を始めるとすれば18時20分まで部活という計算。決して短い練習時間ではない。オフの日には学校行事の準備や委員会活動など部活以外の活動で拘束される場合も多い。

 

にもかかわらず、調査結果によれば、1日2時間以上部活動をしている生徒の割合が半数を超えている。そこも見逃してはいけない。いまどきの中学生はかなり忙しい、全体的に過負荷の状態といえるのではないだろうか。

 

親世代とは違って、今は体育会系の部活でも1時間半や2時間の短時間で集中して練習を行うスタイルの部活が増えている。それでもそれなりの結果を残す学校も多い。

 

部活時間が1日平均2時間以上、さらに3時間以上となると、勉強時間が減るのは当然。疲れてしまって勉強ができないということもあるだろう。

 

その日学習したことをその日のうちに振り返ると、記憶の定着率が上がることも広く知られている。週末にまとめて10時間勉強するよりも平日に1日2時間ずつ勉強して週末は思い切りリフレッシュしたほうが学力は上がりやすそうであることは容易に想像がつく。

 

「長く練習した者が偉い」という価値観はいわゆる「ブラック労働」の温床にもなりかねない。

 

一方で、部活に全く参加していない生徒の正答率が低いことも気になる。全国の中学生のうち9割近くがなんらかの部活に参加している中、学校生活になんらかの問題を抱えている生徒もいるかもしれない。部活に必ず参加しなければいけないとはまったく思わない。しかしそのような生徒にも居場所が見つかるような学校環境の整備も課題として認識されるべきだろう。

 

ところで、今回部活時間についてというタイムリーなトピックを織り交ぜたことで、都道府県別の順位に固執する報道が減ったことは隠れたファインプレーだったのではないかと思う。全国学力テストは順位を競うものではない。大人が大人の事情で順位を過度に気にし始めると、このテストのための対策を行ったり、学力の低い子供をわざと欠席させたりするという本末転倒が起こることは、歴史が証明している。1960年代に実施された「全国学力テスト」はそれで中止されたのだ。

 

今回から政令市ごとの成績も発表されるようになった。そこで成績がふるわなかったからといって短期間での巻き返しを図ろうなどと思わないことだ。教育の成果はなかなか短時間では表れない。この手の大規模調査で短期間で急に成績が伸びるようなことがあればそのほうが不自然だといえる。同じ過ちをくり返さないように、そして何よりそんな本末転倒に子供たちを巻き込まないように、大人が大人でなければいけない。

 

※全国のFMラジオネットワークJFNの「OH! HAPPY MORNING」8月31日に放送した内容を掲載しています。