8月17日発売予定の『神童は大人になってどうなったのか』(小林哲夫著、太田出版)を一足お先に読んだ。

 

タイトルだけを見て最初、教育雑誌によくある天才追跡企画かと思った。しかし実際に読んでみて、別のタイトルを付けるとすれば、『世の中の9割は神童がつくっている』みたいな内容だった。

 

天才追跡というよりは、子供のころから成績が極めて良かったたくさんの有名人の半生を追っているという感じ。教育のことはもちろん、歴史のこと、政治のこと、そして時事ネタまで、社会的リソースとしての神童つまり頭のいい子という観点から世の中を読み解いている。仕事柄私が面識をもった人の名もちらほら出てくる。

 

ときに神童の社会的実績をばっさりと切り捨てる部分もあり、痛快だ。

 

神童であったはずの超秀才たちが、わけのわからない答弁をくり返したり、およそ合理的とはいえない憲法解釈を述べたりすることを具体的に例を挙げつつ、次のように喝破する。

 

そうであれば、「安倍教室」は恐ろしい。一度、足を踏み入れたら、頭の良さが吹っ飛んでしまう、「安倍教室」の優等生になるために、新しい頭のよさと入れ替わってしまうのだから。

 

神童ばかりが集まっているはずの東大医学部からノーベル賞が一人も出ていないことを指摘してこう述べる。

 

情けない。東京大学医学部という組織が日本一の神童集団をダメにしたのか。もともと日本一の神童集団がたいしたことなかったのか。

著者の小林さんは尊敬する大先輩だ。いつも自分の企画の「取材」とかこつけて、とりとめもない相談に乗ってもらい、企画へのアドバイスやヒントをいただいている。事実をベースにこれだけ盛りだくさん内容を書くことができるのは、小林さんの広範囲におよぶ知識、人脈、経験のなせる技だ。自分の仕事のお手本にしたい。