戊辰戦争の負け組として一度は全てを失い、のちに衆議院議員としてまた麻布中学・高校の創立者として教育を実践してきた江原素六は、その教育観を、1902年に政友会が発表した「教育方針大綱九ケ条」に盛り込んだ。以下がその内容。


国への提言として発表されているのだが、現在の日本における教育再生議論の机上に上げてもそのまま使える内容ではないだろうか。江原が生きていたら、現在の教育再生議論に何と言っただろうか。

 

 

第一に教育の方針は保守排外思想を排除したものでなければならない。「国民として己の国家を尊重するは言うまでもなきことながら、ただ固陋の考えから己を尊び他を卑しみ、外人といえばこれを軽蔑するようなことは、自尊ではなく自傲である。」


第二に国民教育は国家の基礎であり、義務教育をすすめ、立憲国民の精神を涵養しなければならない。国民教育は「国家の基礎であるが故に、貧富を問わず男女の別なく、皆これを修せしめねばならない。・・・現今の教育を見るに封建時代の旧思想、専制時代の旧精神なお未だ全く抜けず、立憲国民の精神を涵養するという点において大いに欠くる所あるを見る。」


第三に徳育を重視しなければならない。ただし徳育を文部省検定の修身書や倫理書をもって束縛してはならない。


第四に知育の内容は実用的なものでなければならない。


第五に体育は国家の元気に関するものであり、男女ともに是を奨励すべきである。「男子の体育のみ進歩しても女子の体育またこれにともなはずんば将来子孫の強壮を望むべからず。」


第六に各種実用教育の普及を奨励すべきである。
 

第七に大学のような学理の薀奥を研究する高等の学校においては思想の自由を制限してはならない。


第八に信教の自由は帝国憲法の明示するところであり、学校においてこれに干渉してはならない。


第九に学校の待遇においては公立と私立とを差別してはならない。

 

 

江原は、外務大臣や文部大臣、大学の学長などに何度も推されたが、全て固辞し、「青年即未来」として生涯麻布の校長でありつつけた人物である。
(大綱は、拙著『注目校の素顔 麻布中学校・高等学校』(ダイヤモンド社)より引用)

 

※2014年2月18日に別のブログサイトに掲載したモノを再掲しています。