私はフリーランスとして10年以上働いている。常に見知らぬ人からメールをいただき、これを書いてほしい、これについて話してほしいと、執筆依頼、講演依頼をいただき、おかげさまで生活している。

特にフリーになりたては、どんな仕事も受けろと、諸先輩方からアドバイスをいただき、そうした。しかしそれでは自分の時間、家族との時間はなくなる。「自由業とは、他人に自由に時間を使われる仕事だ」とはサラリーマン時代にお世話になったデザイナーさんの名言だ。

「ときには残業を断る勇気も必要」「パパが残業したらその分、パパの時間だけではなくて、家族がパパと過ごす時間も減ってしまうことに気づきましょう」などと書いたり、しゃべったりしている。私はサラリーマンではないので、残業というものはないのだけれど、明らかに長時間労働をしていれば、世の一般に言う残業と変わらない。だから「夜7時以降は仕事しない。週末は仕事しない」を、自分のルールにしている。

ただし、子育てや教育を扱っているため、どうしても週末の講演依頼というのがある。週末は仕事しないというルールに反するものだ。講演自体はたとえば2時間でも、準備時間、移動時間、拘束時間を含めればほぼ1日仕事になる。

週末に講演を受けることは私にとっては残業だ。土日が両方つぶれてしまうとか、週末が連続でつぶれてしまうとか、家族との時間がなくなり過ぎないようなスケジュールにおいて、きちんとした対価が受けられるのであれば、お引き受けする。

難しいのは格安な講演依頼だ。あまりに安価な講演料で講演を引き受けてしまうと、私にとってはサービス残業になってしまう。「世のお父さんたちに、家族と過ごす時間の大切さを伝えてほしい」と言われるとその社会的な意義には非常に心惹かれるものの、そのために自分が家族と過ごす時間を削っているとしたら、ブラックジョークでしかない。

つい残業してしまうパパたちの心境も同じだろう。「家族との時間を犠牲にしてでも、より多くの人の幸せのために、もうひとがんばりしよう」。尊い自己犠牲の精神だ。しかし過ぎたるは及ばざるが如し。自己犠牲の精神が強すぎて、この社会では残業が常態化し、働き方に多様性が生まれにくくなっている。家族との時間を犠牲にしてまでやりたくない仕事に対してははっきりNOというのもパパに必須の能力だと思う。

というわけで、あまりに格安な講演依頼は、丁重にお断りすることに決めている。家族との時間を守るための私なりの仕事のルールだ。

もしかしたら「おおたは金にうるさい」と思われているかもしれないが、しょうがない。「もし仮にこの料金で毎日仕事を受けていたら、私の年収はいくらになると思いますか? それで家族を養い、ローンを払い続けることができるともいますか?」と説明したくなるが、そこまではしない。

でも、本来、そういうふうにお互いの立場をみんなが想像しあえるようにならないと、24時間子育てに追われてついキリキリしてしまう親の気持ちや、本当はもっと仕事がしたいのに保育園のお迎えに行かなければいけない親の焦燥感、仕事と育児の両立で悩む親の立場なども理解できるわけがない。

そういう意味で、「世の中のパパやママたちを笑顔にしたいので協力してください!」と言いながら、手弁当の講演依頼をいただくと複雑な思いになる。

始めたばかりの事業でどうしても最初の資金がないから、1回だけ力を貸してほしいというような依頼なら、私もむげには断らない。しかし、「世のため人のためなんだから、無料でやってくれて当たり前でしょ。次もよろしくね」という軽いニュアンスで来られると、「それのどこが世のため人のためなんですか? その理屈、ブラック企業といっしょでしょ」とツッコミたくなる。

ボランティアとして講演活動をしている人はまた別の話だろうけど、私自身がボランティアに裂ける時間は、地域ボランティアだけで現状いっぱいいっぱいだ。地域ボランティアの依頼も多いが、「これ以上は無理」と、今はすべてお断りしている。

執筆依頼も同様だ。今はたくさんのWebサービスがあるので、ときどきびっくりするような料金での執筆依頼がある。それも「世のお父さんやお母さんが笑顔になるようなことを書いてください」って、社会的意義は満点だ。でも、「この料金で仕事をして、生活ができると思います?」という料金で私が仕事を受けていたら、世のお父さんやお母さんが笑顔になれるはずがない。ますます賃金が下がり、暗い顔になっていくはずだ。その矛盾に気づいてほしい。

ちなみに、金曜日の夕方に執筆依頼があり、「月曜日までに原稿をお願いします」みたいな仕事は論外だ。「パパにお勧めする家族との週末の過ごし方を書いてください」なんて言われると、あまりのブラックユーモアのセンスに感服してしまう。何かでトラブってしまって、どうしても助けてほしいというなら話は別。しかしそれを連続でやられたら、さすがにもう2度とそことは仕事しない。

でも待てよ。そこだけがんばれば1カ月くらい遊んでいてもいいくらいのギャラがもらえるなら、それは受けるかも・・・・・・。やっぱり私はお金にうるさいようだ。ごめんなさい。


FQ JAPAN ONLINEに寄稿した記事を転載しています。