神奈川の某高校で起きた生徒による集団万引き事件を受け、尾木ママが、学校の対応を絶賛した。学校が事件を隠さなかったこと、そのうえで、生徒たちを「登校謹慎」つまり、学校に通いながら指導を続けるという手段を選んだことを、「パーフェクト」「生徒のことを本当に愛してる」と褒め称えたのだ。

 

私も同感だ。

 

私が中学生だったときにも同様のことがあった。母校は今回の高校と同じ対応をした。ちなみに、母校でのできごとは、かつてこちらのブログに書いた。最後の<おまけ>の部分。

謎の進学校麻布の教え

 

少年による凶悪な事件が起こると、その処罰のありかたと、予防の方法がごちゃまぜにされて語られることが多い。しかしそこを混同すると、事態を悪化させてしまうことがある。

 

ちょうどそんなことを、10日ほど前に、FQ JAPAN ONLINEに寄稿していたので、一部修正してここに貼り付ける。

 

>>>以下、FQ JAPAN ONLINEに3月5日に寄稿したコラム。

 

問題行動は子供の無意識が発するSOS

 

川崎市で、18歳の少年が、12歳の少年を殺害するという痛ましい事件が起きた。子をもつ親であれば、当然加害者に対する憎悪の念が沸き立つ。加害者の行為を擁護するつもりはまったくない。しかしあえて言う。私たち大人にも大きな責任がある。

 

家庭内に適切な生育環境がない場合、すなわち暴力、暴言、育児放棄、不適切育児などによって、子供に対する人権侵害が行われている場合、子供は無意識のうちに非行という形でSOSを発する。社会的な問題を起こすことで、親以外の大人の介入を求める。最初は軽微な問題行動でSOSを発する。しかしそれが適切に受け止められないと、問題行動はエスカレートする。

 

子供が人間主義的な社会志向と人生観を身につけることは、まずは親や家庭の役割だとされる。しかし親がその機能を十分に果たせない場合、すなわち子供の人権が家庭内で守られていない場合、社会がそれを補う必要性がある。

 

社会がそれを引き受けないで、問題を起こした子供に「問題児」や「非行少年」というレッテルを貼り放置することは、子供に対する人権侵害を社会が放置することだ。いじめを目撃しながら何もしない傍観者になることと同じだ。

 

子供たちからのSOSを受けとることができない社会にこそ、構造的な問題がある。大人たちにこそ、怠慢がある。

 

「いじめを見て見ぬふりをするのはいじめに加担していると同じだ」と言う大人は多い。それは正論である。しかしそっくりそのままその言葉を大人たちがもう一度かみしめるべきだ。そうしなければその言葉には何の説得力もない。

 

 

排除の理論が加害者を育てる

 

いわずもがな、今回のような被害者をつくらないためには、加害者をつくらないことが最大の予防策だ。加害者をつくらないためには、問題行動を起こした子供を社会から排除するのではなく、社会の大人がスクラムを組んで包み込むことのほうが有効だ。

 

社会の大人が諦めて、問題行動を起こす子供の手を離してしまったら、その子は社会の中に居場所を見つけられなくなる。反社会的な生き方をするしかなくなる。こうして、“社会が加害者を育てる”。国際社会から排除された国家の残党が非社会的暴挙を繰り広げるに至るのと全く同じプロセスだ。

 

今回の加害者は明らかに一線を越えてしまった。加害者を加害者にしてしまった社会としての大きな責任を一人ひとりが重く受け止めつつ、私たち大人は、彼を社会的統制の対象にせざるを得ない。しかし一線を越えてしまった加害者への対応と、予防の観点での施策は分けて考えなければいけない。

 

予防のために必要なのは、「排除の理論」ではなく「包摂の理論」である。

 

感情が揺さぶられるような事件である。感情的になるなというのは難しい。しかしそれでも、感情に振り回されず、理性的に思考する責任が、大人にはある。

 

また、少年犯罪件数自体は減少傾向にあることも付け加えておく。社会としてのセーフティネットは確実に進化している。油断はならないが、あまり悲観的になりすぎてもいけない。

 

最後に、「少年非行の防止に関する国際連合指針」通称「リヤド・ガイドライン」の一読をお勧めする。

→英語原文 http://www.un.org/documents/ga/res/45/a45r112.htm

→日本語訳(平野裕二) http://homepage2.nifty.com/childrights/international/juv_justice/riyadh_guidelines.htm

 
<<<以上。


世間で言ういわゆるいい学校ほど、こういうときに、生徒を中心にした発想をする。詳しくは、拙著『名門校とは何か?』を参照していただけるとうれしい。

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