AERAの「男がつらい!」特集に関連した昨日のエントリで、「今のままの社会環境で、夫婦が二人ともフルタイムワーカーで、仕事と育児・家事の両立は無理ゲーだということを堂々と言いやすいムードをつくっていくことだと私は思う。『もっと仕事を効率化すれば、時間はできる』みたいなことをいうのをやめることだ」というようなことを書いた。

 

今までは、「“カイゼン”すれば両立できる!がんばれ!」というメッセージが多かった。でも私はそれに疑問を感じていた。だから、特に忙しいパパ向けには(ワーキングマザーも同じなんだけど)、「家族時間は量より質」などと言ってきた。「サバイバル育児よりもサステナブル育児」なんてことも言った。歯を食いしばって無理ゲーに挑むのではなく、無理なことは無理と認めたうえで、できることをやっていこうというメッセージを発してきたつもりだ。

 

そうすると、「そんな甘えたことを言っているから世の中が変わらないんだ」というような批判を受けることもあった。でも、今回のAERAの特集や、NHKのクローズアップ現代の「男はつらいよ2014」などで、仕事と育児・家事の両立の無理ゲー状態が広く認知され、ようやく歯車が正しい方向に回り出すのではないかという予感がしている。

 

特に昭和の専業主婦の家事・育児レベルを目指すのはやめようというメッセージはくり返し発してきた。その意味で、つい先日の「家事ハラ」騒動では、「これくらいでいいんじゃね」という夫に対して、妻がより高い家事レベルを要求するということに「?」と感じた。「それって自分で自分の首を絞めていないか? もっとスタンダードを下げたらどうか?」。

 

そんな文脈の中でよく出す話がある。イクメン大国ノルウェーの父親の定番料理は冷凍ピザであるという話である。それでも「手抜き」とは言われない。だからこそ、イクメンが育つし、女性も無理ゲーに挑まなくていいわけだ。

 

それが拙著『忙しいビジネスマンのための3分間育児』の主たるメッセージでもある。

 

以下、その「あとがき」から引用する。

 

たった3分間でも、父親として、子どもにしてやれることは意外に多いということがおわかりいただけたかと思います。家族時間の質を高めることとはすなわち、家族と過ごす時間をより楽しい時間にすること、より思い出深い時間にすること、より感動的な時間にすること。これらはすべて、一種の技能といえます。自転車の乗り方を覚えれば一生忘れることがないように、一度身につければ下手になることはありません。これから先、どんなに仕事が忙しくなろうが、家族との時間の質を守ることができるはずです。

 

また、お気づきの方も多いかもしれませんが、子どもとのコミュニケーションスキルは、そのまま部下とのコミュニケーションに使えます。妻とのコミュニケーションスキルは、そのまま上司とのコミュニケーションに使えます。上下関係ではなく、共感に根ざしたコミュニケーションスキルで周囲のよいところを引き出す手法は、そのままサーバントリーダーシップにつながります。家族を笑顔にできる男性は、職場を明るくすることもできるのです。

 

さらに、本書を読んで、「本当なら3分間だけじゃなく、もっといっしょにいてあげたい」。そんな気分になった方もいるのではないかと思います。そこが大事です。限られた時間をいかに濃密に過ごすかという意識が高まると、不思議なことに、家族と過ごす時間の量もじわりじわりと増えていくのです。

 

「仕事がなかなか終わらなくて子育ての時間がない・・・」と嘆くお父さんの多くは、知らず知らずのうちに「仕事>家族」という価値観に、無意識が支配されてしまっているのだと思います。社会全体にはびこる価値観ですからね。染まってしまうのはしょうがありません。「忙しいから育児なんてできるわけがない」という意識では、その状態を変化させることは困難でしょう。しかし、「3分間でもいいから育児してみよう」という価値観が無意識に潜り込むことで、無意識の中でのパラダイムシフトが起こります。

 

「女性の社会参画を促進するために男性も育児を!」とか「少子化を食い止めるために男性も育児を!」とか、いくら大上段のことをいわれても、目の前の仕事の山の圧力にはかないません。男性の無意識の中に、「家族時間」や「育児」の領域を増やしていくためには、他人から高尚な理念を説かれるよりも、実際にやってみることです。たとえ1日3分間でも、子どものこと、妻のこと、家族のことに一生懸命になってみれば、必ず手応えを感じます。「もっとやりたい」と思うようになります。「3分間育児」が「仕事第一」という無意識に風穴を開けるのです。そうすると、自分でも知らず知らずのうちに、家族との時間を少しでも増やすように、行動し始めるようになるのです。

 

そうやって一人ひとりの無意識が少しずつ変化することで、いつの間にか社会全体が変わっていくのだと思います。まずは3分間。焦らずに、じわりじわりと……。

 

そもそも、「仕事が忙しくて育児ができない」なんて、するべき仕事があって、世界一愛おしい子どもがいて、しっかりもののママがいるという、奇跡的なくらいに恵まれた状況にいる男性でないと口にできない超贅沢なセリフです。そのことへの感謝の気持ちさえ忘れなければ、「3分間育児」、続けられますよね。