拙著『パパのネタ帖』に掲載したちょっと懐かしい話。
 
(以下、引用)
 
ある休日。突然思い立った。
そうだ、たまにはママを解放してあげよう!
チビを1日連れてでかければママもきっとご機嫌だ。
 
実は行き先は決めてあった。それは、羽田空港。
飛行機の離着陸を見せていればお金もかからないし、遊ぶところも食べるところもありそうだし、なんとなくチビにソンケーされそうだし(パパがヒコーキ操縦するわけじゃないけどさ)。
 
パパとチビのスクランブル発進!
 
しかし、空港に着いてほんの10分もたたないうちに、うすうす(というか、かなり)予想していたセリフがチビが口から飛び出した。
「パパ、ボク、飛行機乗ってみたい!」
う~ん、やっぱりパパの子だ。
 
「○○してみたい!」といわれるとパパは弱い。
「ヒコーキ乗りたい!」といわれても「今度ね」といえるけど、
「ボク、ヒコーキ(乗ったことないから)乗ってみたい!」といわれたら、そりゃあ弱い。
未知の世界に憧れる幼子のけなげな願い、パパがかなえてあげられなくて、誰がかなえてあげるのか!
「うーん、どうしようか。お金あるかな?」などと一応困った顔をしてはみるものの、パパの気持ちは決まっていた。
「ボクのパパはヒコーキにだっていつでも乗れちゃうんだー!スゴイんだ!」…とか思っちゃうだろうな、こいつ。
 
かくして僕たち親子は片道チケットを手にして機上の人となった。
一番チケットが安かった大阪までの約1時間。それはもう感動の嵐だった。
「ほら、雲より上を飛んでるよ!」
チビとのはじめての男ふたり旅に感極まり、調子にのったパパは
「今日はパパとふたりでお泊まりしようか?」と誘ってみた。
まるで女の子をはじめてのお泊まりに誘うように。
 
週末の昼過ぎ、人もまばらな伊丹空港に到着。
「ヒコーキ乗れたじゃん!すげー」とチビをあおるパパだけど、
「はて、これからどうしよう?」
ということで、とりあえずリムジンバスに乗り、梅田をめざす。
(この無計画さがたまらない!ママといっしょじゃこうはいかんもんね!)
(おっと!忘れてた)
 
あっという間にやってきた旅の終わり
 
バスを降りたところでパパとチビの悪ガキふたり、得意な気分でママに電話。
「ママきっと驚くよ!」とケータイをチビに手渡す。
「いま、オ・オ・サ・カっていうところ。今日はパパとお泊まり!」
チビがケータイに意気揚々と語りかけるが、どうも話が盛り上がっていない。
ふと、よぎる不安、そして的中……。
 
「『勝手にしなさい!』だって」困惑した様子でケータイを差し出すチビ。
(マズイ…ママ完全に怒ってる)
おそるおそる電話を代わるとまったく無表情な声。
やばい、怒り指数最上級!!
「えーと、きょ、今日中には帰るから……」
「勝手にしてください。プーッ、プーッ、プーッ」
「……」
「まずいぞ、チビ。ママすごく怒ってるよ。今日はお泊まりやめて帰ろう」
 
「パパのウソつきー」とぐずるチビの気休めに梅田のデパートでおもちゃを買い、すぐに伊丹空港行きのリムジンに飛び乗った。
たった3時間の大阪だった。鬼と化したママの顔が目に浮かび、帰りの機中で食べた空弁の味は記憶にない。
 
それから2週間(3週間だったかも…)、ママは口をきいてくれなかった。
そんな夫婦の空気も気にもとめず、毎日のように機内でもらった飛行機の模型を取り出して「ボクここに乗ったんだよね。スゴイよね」とうれしそうにはしゃぐチビ。
「だから、それを言うなって!」
 
ところで、この話をして「いいパパだね」という女性はまず子どものいない人といっていい。
子どものいる女性に話すとそろって「そりゃ、怒るよ」と。
良かれと思ってしたことも、立場違えばなんとやら。
だから夫婦は難しい。
 
(引用、以上)
 
 
ということを、息子が3歳くらいのときにやった。
懐かしい思い出だ。
それをちょっと前に息子と話した。
 
僕:あのとき、羽田空港に行って、そのまま飛行機乗っちゃって、ママに怒られて慌てて帰ったよな
息子:そのとき、飛行機代、いくらかかったの
僕:うーん、二人合わせて往復で5万円くらいだったかな……
息子:えっ、バカじゃないの! オレちっちゃかったんだから、父さんがちゃんと判断してよ!
僕:・・・・・・・
 
現在息子12歳。成長してくれたもんだ。
いや、オレも。