録音スタジオを出て、「一風堂」でラーメン。替え玉を頼んだら「細めんもスープによく、絡んで美味しいですよ。」と心から愛想のいい若い女の子の店員さんに勧められて、素直に従う。内心「おそらく君より長く、博多でラーメン食べてるんだけどなあ…」と思ったが、その愛くるしい笑顔と「へぇ、替え玉の時に麺の種類を変えられるんだ!」という驚きと、自分より若い世代がドンドン自分の知らない事を知っている事に慣れはじめた僕の選択だった。
確かに旨いとラーメンをすすっていると一席はなれたカウンター席のとなりで「細めんもスープによく、絡んで美味しいですよ。」さっきの声が聞こえる。


マニュアルだった。



海外にも店があり、幅広い展開をしているこの店にマニュアルがあることは驚く事ではない。もちろん美味しかったし、接客も申し分ない。

僕が驚き、自分の問題として絶望的な気持ちになったのは、彼女の笑顔や行動がマニュアルを超えていた事だ。ファーストフードのそれとはまったく別物だった。

そこには、「揺るぎない信念」みたいなものがあった。

じゃあ何故は僕が絶望的な気持ちになったのだろう。

きっとそれは僕が感じた「揺るぎない信念」は店の為に作られた信念だと思うからだ。なのに彼女は、その信念に従ってイキイキと働いている。

もちろん彼女もプライベートでは又別の「信念」があるかもしれないし、僕は決してマニュアルによって作られた会社の為の「揺るぎない信念」を否定しているわけではない。


絶望的になったのは、僕も、その「信念」をマニュアルをつくり打ちたてなければいけないのかなあ・・・という思いが頭を過ぎったからだと思う。
一つの作品を創りあげる為の「揺るぎない信念」の共有は僕にも理解出来るし、やっぱり今まで作ってきたと思う。


長く一緒に芝居を作ってきた仲間に「あなたは座長として属している座員の裏も表も全部の事を知ろうとし、そのくせ誰も信じてはいない。きっと私の事も何処で誰かに悪く言ってる気がする。」と言われた事があります。ドヒャーと倒れそうになりながらも、まとも言葉も返せず。心の中で「そんな思いをさせてごめんなさい。でも悪気はないんだ。集団が良くなる為には、僕はきちんとダメだと思う事を言葉にしなきゃいけないんだ。」と叫んでました。

つまり叫ぶ事なく「揺るぎない信念」の一貫性を持たせるマニュアルを僕が拒否するならば、僕は経営なるものをしてはいけないのでは、と考えた時に絶望的になったのだと思われます。

美容室を何軒も経営して100人ぐらいのスタッフを使い、自分もカリスマ美容師的に活躍し、外車を何台も所有するオーナーさんへ組織の統括はどうやってるかの旨を尋ねたら、一言「思想教育!」と言われ、3歩ほど後退りしてしまったことがあります。


今「レッドクリフ」が公開されてるけど、三国志の物語に人が惹かれるわけがわかる気がする。


と、ここまで湯船の中で半身浴をしながら考えかいた。さあ、上がろう。