ようやく、念願ともいうべき、市川準監督のデビュー作『BU・SU』はじめ5作品が初DVD化の運びとなりました。
http://ichikawa-jun.com/sp/dvd.html
ここでは松竹さんから10月28日にリリースされるDVD-BOX「memories of 市川準」のブックレットのために書き下ろした原稿とは別テイクとして、市川作品について、あれこれと綴っていきます。
第二回『会社物語 MEMORIES OF YOU』
1988.11.26『会社物語』
【出演】ハナ肇、西山由美、植木等、谷啓、犬塚弘、桜井センリ ほか
作品について
市川準の第二作『会社物語 MEMORIES OF YOU』の企画の発端は、市川とはCMの仕事を伴にしていた劇作家の鈴木聡による、クレージーキャッツをイメージした芝居のアイデアだった。
“無責任男”のニックネームで、パワフルなバイタリティ喜劇に主演していた植木等は、当初、会社の使い込みがバレて、地下の資料室に飛ばされた哀れな男、にも関わらず元気なキャラ、という設定が用意されていた。まるで『日本一のホラ吹き男』(1963年・古澤憲吾)の主人公のその後のようでもある。しかし、植木が難色を示したため、守衛はどうか、と市川が提案。植木も納得したというが、『日本一のホラ吹き男』で植木は守衛から重役に出世する。ここにも市川の映画ファンぶりが伺える。
夜の銀座四丁目で、クレージーの面々が、三橋美智也の「達者でな」を歌うシーンがある。ここで上木原が「おい! いまの日本、オレたちが作ったんだぞお!」と叫ぶ。このコンストラクションは市川が作ったものだが、これぞクレージー映画の精神!である。しかも上木原は、立派な屋敷の主人で、若い妻(羽田美智子)と幸せな日々を過ごしている。無責任男の“その後”をちゃんと描いているのだ。
中盤で花岡はフィリピン出張を命ぜられる。現地で花岡を迎え入れる支社長・山本浩二に扮しているのは、ベテラン・ジャズ・ピアニストの山川浩一。その前任者で、現地女性と心中した石橋二郎のエピソードが綴られるが、演じるは石橋エータロー。1971年にクレージーキャッツを脱退したピアニストの特別出演は、おそらくハナ肇の粋な計らいだろうが、市川の優しいまなざしを感じる。その石橋を追悼しながら、山本がピアノでスタンダードの「♪AGAIN」を弾くが、ここでの体験が、花岡たちがジャズバンドを結成する、動機の一つになったに違いない。
ここで“東京商事スイングバンド”のメンバーを紹介しておこう。
テナーサックス&クラリネット
海外三課 安井伸(安田伸)
ギター
守衛室勤務 上木原等(植木等)
ベース
営業二部 犬山弘(犬塚弘)
トロンボーン
営業一部 谷山啓(谷啓)
ドラムス
第一総務 花岡始(ハナ肇)
ピアノ
経理課 桜田千里(桜井センリ)
彼等が有楽町のガード下の居酒屋で、あるいは洒落たバーで、そして上木原の自宅で、楽しげに交わすジャズ談義は、まったくのアドリブだという。そこに漂う優しい空気、温もりこそ、市川準が映画でとらえたかった“瞬間”でもある。
ラスト、早朝になってしまったコンサートで演奏されるのが、安井のクラリネットで始まる「♪MEMORIES OF YOU」、谷山のトロンボーンがリードをとる「♪STAR DUST」、そして最後の「♪黒い瞳」は、花岡のドラムソロで終わる。この選曲の妙。「♪STAR DUST」といえば、伝説のバラエティ「シャボン玉ホリデー」(NTV)のクロージング・テーマでもある。
ロッカールームでマウスピースをしまう谷山の姿に、ジャズを愛した男たちへの想いがつまっている。
市川がこの映画のために考えたコピーのメモが残されている。
「会社って、なんだか、クレージー。」
「シャボン玉とんだ・・・・さよなら、会社。」
「おとっつあん、映画ができたわよ。」
「日本全国の、およびでない人々に捧げる。」
いずれも、クレージーファン納得、というのが嬉しいではないか!
『会社物語 MEMORIES OF YOU』の風景
●丸の内オフィス街
花岡始たちが勤務している東京商事は、東京駅丸の内北口のほど近くにある。会社シーンのほとんどは大手街、丸の内界隈で撮影している。江戸時代、親藩や譜代大名の藩邸が多く“大名小路”と呼ばれていたが、明治維新後、官有地となり、1890年に三菱の岩崎弥之助が購入。三菱グループ各社の本社がおかれ、ビジネス街として発展を遂げた。
●銀座
花岡、谷山、上木原、犬山、安井、桜田たちが、三橋美智也の「達者でな」を唄いながら歩くのは、銀座通り。日本を代表する盛り場として、明治大正昭和と発展を遂げてきた。1965年の『クレージー大作戦』の冒頭で、植木等がこの通りの反対側で唄って踊るシーンがあった。
●コマーシャル
伊東四朗がタフマンを飲んだり、CMタレント役でジャイアント馬場がワンシーン出演。また由里がテレビで「リプトン紅茶」や岡本太郎が出演した「セイコー エクシード」のCMを眺めるシーンがある。
●六本木
由里が花岡をデートに誘い、待ち合わせをするのが、六本木交差点近くにあるアマンド六本木店。この映画が作られた頃、日本はバブル経済の真っただ中、ディスコのお立ち台には、女の子たちが競って立って踊っていた。そうした風俗がフィルムに収められている。
●名傍役たち
由里とのデートの帰り、花岡が帰宅すると、深夜テレビで日活映画『赤い夕陽の渡り鳥』(1960年)のラストシーンが流れている。主演は小林旭。次のカットで、エレベーターで専務役の近藤宏が登場。近藤宏は、小林旭の映画などで敵役を演じていた名傍役。巻頭で「差別」について話す掃除夫を演じている小林重四郎は、戦前からの時代劇スター。他にも、東宝の名傍役だった堺左千夫など、市川が愛した日本映画のベテラン俳優が数多く出演している。
●音楽の風景
♪I’LL NEVER SMILE AGAIN
♪OVER THE RAINBOW
♪MEMORIES OF YOU
♪STAR DUST
♪黒い瞳
この場所には、YouTube動画が貼り付けられます。
http://ichikawa-jun.com/
http://d.hatena.ne.jp/ijoffice/
http://ichikawa-jun.com/sp/dvd.html
ここでは松竹さんから10月28日にリリースされるDVD-BOX「memories of 市川準」のブックレットのために書き下ろした原稿とは別テイクとして、市川作品について、あれこれと綴っていきます。
第二回『会社物語 MEMORIES OF YOU』
1988.11.26『会社物語』
【出演】ハナ肇、西山由美、植木等、谷啓、犬塚弘、桜井センリ ほか
作品について
市川準の第二作『会社物語 MEMORIES OF YOU』の企画の発端は、市川とはCMの仕事を伴にしていた劇作家の鈴木聡による、クレージーキャッツをイメージした芝居のアイデアだった。
“無責任男”のニックネームで、パワフルなバイタリティ喜劇に主演していた植木等は、当初、会社の使い込みがバレて、地下の資料室に飛ばされた哀れな男、にも関わらず元気なキャラ、という設定が用意されていた。まるで『日本一のホラ吹き男』(1963年・古澤憲吾)の主人公のその後のようでもある。しかし、植木が難色を示したため、守衛はどうか、と市川が提案。植木も納得したというが、『日本一のホラ吹き男』で植木は守衛から重役に出世する。ここにも市川の映画ファンぶりが伺える。
夜の銀座四丁目で、クレージーの面々が、三橋美智也の「達者でな」を歌うシーンがある。ここで上木原が「おい! いまの日本、オレたちが作ったんだぞお!」と叫ぶ。このコンストラクションは市川が作ったものだが、これぞクレージー映画の精神!である。しかも上木原は、立派な屋敷の主人で、若い妻(羽田美智子)と幸せな日々を過ごしている。無責任男の“その後”をちゃんと描いているのだ。
中盤で花岡はフィリピン出張を命ぜられる。現地で花岡を迎え入れる支社長・山本浩二に扮しているのは、ベテラン・ジャズ・ピアニストの山川浩一。その前任者で、現地女性と心中した石橋二郎のエピソードが綴られるが、演じるは石橋エータロー。1971年にクレージーキャッツを脱退したピアニストの特別出演は、おそらくハナ肇の粋な計らいだろうが、市川の優しいまなざしを感じる。その石橋を追悼しながら、山本がピアノでスタンダードの「♪AGAIN」を弾くが、ここでの体験が、花岡たちがジャズバンドを結成する、動機の一つになったに違いない。
ここで“東京商事スイングバンド”のメンバーを紹介しておこう。
テナーサックス&クラリネット
海外三課 安井伸(安田伸)
ギター
守衛室勤務 上木原等(植木等)
ベース
営業二部 犬山弘(犬塚弘)
トロンボーン
営業一部 谷山啓(谷啓)
ドラムス
第一総務 花岡始(ハナ肇)
ピアノ
経理課 桜田千里(桜井センリ)
彼等が有楽町のガード下の居酒屋で、あるいは洒落たバーで、そして上木原の自宅で、楽しげに交わすジャズ談義は、まったくのアドリブだという。そこに漂う優しい空気、温もりこそ、市川準が映画でとらえたかった“瞬間”でもある。
ラスト、早朝になってしまったコンサートで演奏されるのが、安井のクラリネットで始まる「♪MEMORIES OF YOU」、谷山のトロンボーンがリードをとる「♪STAR DUST」、そして最後の「♪黒い瞳」は、花岡のドラムソロで終わる。この選曲の妙。「♪STAR DUST」といえば、伝説のバラエティ「シャボン玉ホリデー」(NTV)のクロージング・テーマでもある。
ロッカールームでマウスピースをしまう谷山の姿に、ジャズを愛した男たちへの想いがつまっている。
市川がこの映画のために考えたコピーのメモが残されている。
「会社って、なんだか、クレージー。」
「シャボン玉とんだ・・・・さよなら、会社。」
「おとっつあん、映画ができたわよ。」
「日本全国の、およびでない人々に捧げる。」
いずれも、クレージーファン納得、というのが嬉しいではないか!
『会社物語 MEMORIES OF YOU』の風景
●丸の内オフィス街
花岡始たちが勤務している東京商事は、東京駅丸の内北口のほど近くにある。会社シーンのほとんどは大手街、丸の内界隈で撮影している。江戸時代、親藩や譜代大名の藩邸が多く“大名小路”と呼ばれていたが、明治維新後、官有地となり、1890年に三菱の岩崎弥之助が購入。三菱グループ各社の本社がおかれ、ビジネス街として発展を遂げた。
●銀座
花岡、谷山、上木原、犬山、安井、桜田たちが、三橋美智也の「達者でな」を唄いながら歩くのは、銀座通り。日本を代表する盛り場として、明治大正昭和と発展を遂げてきた。1965年の『クレージー大作戦』の冒頭で、植木等がこの通りの反対側で唄って踊るシーンがあった。
●コマーシャル
伊東四朗がタフマンを飲んだり、CMタレント役でジャイアント馬場がワンシーン出演。また由里がテレビで「リプトン紅茶」や岡本太郎が出演した「セイコー エクシード」のCMを眺めるシーンがある。
●六本木
由里が花岡をデートに誘い、待ち合わせをするのが、六本木交差点近くにあるアマンド六本木店。この映画が作られた頃、日本はバブル経済の真っただ中、ディスコのお立ち台には、女の子たちが競って立って踊っていた。そうした風俗がフィルムに収められている。
●名傍役たち
由里とのデートの帰り、花岡が帰宅すると、深夜テレビで日活映画『赤い夕陽の渡り鳥』(1960年)のラストシーンが流れている。主演は小林旭。次のカットで、エレベーターで専務役の近藤宏が登場。近藤宏は、小林旭の映画などで敵役を演じていた名傍役。巻頭で「差別」について話す掃除夫を演じている小林重四郎は、戦前からの時代劇スター。他にも、東宝の名傍役だった堺左千夫など、市川が愛した日本映画のベテラン俳優が数多く出演している。
●音楽の風景
♪I’LL NEVER SMILE AGAIN
♪OVER THE RAINBOW
♪MEMORIES OF YOU
♪STAR DUST
♪黒い瞳
この場所には、YouTube動画が貼り付けられます。
http://ichikawa-jun.com/
http://d.hatena.ne.jp/ijoffice/