オッペンハイマー(IMAX) | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。


オッペンハイマー(IMAX)


2023年作品/アメリカ/180分

監督 クリストファー・ノーラン

出演 キリアン・マーフィ、エミリー・ブラント


2024年3月30日(土)、シアタス調布のIMAXシアターで、8時25分の回を観賞しました。


第二次世界大戦下、アメリカで立ち上げられた極秘プロジェクト「マンハッタン計画」。これに参加した J・ロバート・オッペンハイマーは優秀な科学者たちを率いて世界で初となる原子爆弾の開発に成功する。しかし原爆が実戦で投下されると、その惨状を聞いたオッペンハイマーは深く苦悩するようになる。冷戦、赤狩り―激動の時代の波に、オッペンハイマーはのまれてゆくのだった(以上、公式サイトからな引用)、という物語です。


唯一の被爆国である日本では広島と長崎の惨状が正しく描かれていないとして公開延期になっていた「オッペンハイマー」が、アカデミー賞を受賞したからということもあるのでしょうが、満を持して遂に公開。監督はクリストファー・ノーラン(本作で監督賞を受賞)ですが、これは力作で、賛否両論あると思いますが、今年観ておくべき一本ではないかと。


✴︎大幅に加筆修正し、3月31日(日)9:40に再アップしました。


時間軸を崩す構成と過度な説明を廃した描写、でも難解ではない

「Fat Man and Little Boy(89)」というポール・ニューマンが主演だった映画が日本では「シャドー・メーカーズ」というタイトルで公開され、私はビデオレンタルで観ました。アメリカでの原爆完成に至るまでの秘話を描いたもので、監督はローランド・ジョフィ。この原題の〝太っちょとチビ〟って何なのというと広島と長崎に落とされた原子爆弾の名前。


この原爆の父とも言われたJ・ロバート・オッペンハイマーという物理学者の内面に迫る映画。物理学者であっても実験や計算が苦手。精神的に不安定で、人とのコミュニケーションにも障がいを抱えている。そんな彼がアメリカ陸軍のレズリー・グローヴスから引き受け手のないプロジェクトリーダーに任命されて、というところから始まる事実に基づく話。


ドラマの時間軸が複雑に構成されているのはクリストファー・ノーランらしいところ。原爆の開発を進めるオッペンハイマーの話〈マンハッタン計画〉だけでなく、並行しながら、戦後に行われたオッペンハイマーの国家反逆罪を問う諮問委員会の様子や、その影で動く原子力委員会のトップであるルイス・ストローズの私的な積年の恨みが描かれていきます。


▼原子爆弾を秘密裏に開発するオッペンハイマー視点はカラー


オッペンハイマーの脳内、内面に迫っていく重たい人間ドラマ


なので3時間もかかるわけですが、全然飽きなかったです。描いていることと描き方が知的好奇心を煽ってくれますし、大変多くの登場人物がいて、なんとなく出てきた人が後半になって意味のある発言をしたりするので気が抜けないのです。でも決して難解な作品にはなっていないと思いますよ。むしろ難解になりそうなところは避けていると思われるくらいです。


オッペンハイマーが原爆完成を祝う式典で受ける拍手喝采が、無差別に殺された人たちの阿鼻叫喚となって聴こえてきたり、また参加している人たちの姿が原爆の放射線に苦しめられる人の姿に見えてしまうなど、直接的な描写ではなく彼の脳内描写として描かれていて、なまじ中途半端な描き方をされるよりも、そういう演出のほうが良かったと感じたのですが。


しかし、人の痛みを想像できない人が権力を握るというのは怖いものです。本作では科学の講義を受ける若きオッペンハイマーが、自分をいじった講師を青酸カリを使って殺そうとする場面が出てきます。精神的ストレスを抱えていたとはいえ、すぐに周りが見えなくなる、そういう行為に走ってしまう弱いし、歪つな人間だったということで。この場面が全てを物語っていました。


▼オッペンハイマーと対立するストローズ視点は白黒



今にも続く科学者と政治家の対立とリスクを考えさせられる


オッペンハイマーを始めとする物理学者たちは、純粋に学問の追求、数式の証明という感覚で突き進んでいくわけで、それは〝なぜ山を登るのか〟ということと同じ。さらに、ここには〝ドイツやソ連よりも早く〟(当然、日本も)という使命感もあったわけです。それを実際に使ったのは政治的な判断であり、大統領が最終責任を負うべきなのは自明の理かと。


とは言うものの、原子爆弾を使うことに対する科学者たちの抵抗や、原子爆弾を完成させたときの科学者と軍が一緒になってのはしゃぎっぷりというのは、日本人にしてみると、あまりにも軽くて空寒くなります。そのあたりの〝軽さ〟について今振り返って〝どうなの?〟ということを改めてアメリカ人がアメリカ人に問う機会として本作はあるべきなのでしょう。


原子爆弾を単なる大量殺戮兵器としてしか描かず、その本当の怖さ、惨さを落とされたほうの視点、とくに一般人の視点をいっさい入れずに作られた本作には賛否両論があって当然だと思います。そこに持っていかず、科学技術の進歩とその使い方についての問いかけが本作の軸、肝ということで言えば、決して過去の話と片付けてはいけない、ということかと思います。


▼ 陸軍のグローヴを演じたのはマット・デイモン


本作はドラマ中心で過去のノーラン的な派手な絵的見せ場というのはほぼ無いのですが、〝音〟を使った演出が随所に出てきます。なので、映画館で観て欲しいですね。それにやはりキャストのみなさんどなたの演技も見応えあります。主演のふたり、キリアン・マーフィとロバート・ダウニー・Jr.に加え、オッペンハイマーの妻役のエミリー・ブラントが良かったです。


この映画を観たあとで、日本国民の側にも改めて多くのアメリカ人が関心を持ってもらえるといいですね。アカデミー賞受賞で自画自賛、うかれている国際情勢でもないでしょうし。


トシのオススメ度: 5

5 必見です!!
4 オススメです!
3 良かったです
2 アレレ? もう一つです
1 私はお薦めしません


オッペンハイマー、の詳細はこちら: 公式サイト


この項、終わり。