キリエのうた | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。


キリエのうた


2023年作品/日本/178分

監督 岩井俊二

出演 アイナ・ジ・エンド、広瀬すず


2023年10月14日(土)、新宿バルト9のシアター8で、9時30分の回を観賞しました。


石巻、大阪、帯広、東京を舞台に、歌うことでしかを出せない住所不定の路上ミュージシャン・キリエ、行方のわからなくなった婚約者を捜す青年・夏彦、傷ついた人々に寄り添う小学校教師・フミ、過去と名前を捨ててキリエのマネージャーとなる謎めいた女性・イッコら、降りかかる苦難に翻弄されながら出逢いと別れを繰り返す男女4人の13年間にわたる愛の物語(以上、映画.comからの抜粋)、です。


岩井俊二監督の新作。アイナ・ジ・エンドというかたが出演しており、〝これだれ?〟とママさんに訊くと、〝いまさら?解散したBiSHのメンバー〟と鼻で笑われました。YouTube動画を見たのですが、還暦を控えたオジさんが言うのも何ですが、〝プロミスザスター〟はじめ凄いかっこいい楽曲、振り付けで、鳥肌が!映画も彼女の歌だけで感動できる、ものでした。



《感想です》


  • 時と場所を超えて再会する傷ついた人たち、岩井監督の語り口を堪能
  • キリエの悲しい過去。全く予想していない展開に驚いてしまいました
  • 表層的な描写の積み重ねからでも大切なことが浮かび上がる不思議さ


この映画は3時間あるので、トイレコントロールは必須です。ただ私は飽きることなく最後まで惹きつけられながら観賞し終えました。帯広、大阪、東京、石巻という四つの舞台で、異なる時代のドラマが描かれていくのですが、そこに出てくる人たちが誰なのかが観ているうちに分かってきて、やがてジグソーパズルのようにつながっていき、大きな一枚の絵を形成します。


過去と現在を複雑に行き来しながら進み、かつ、ある二人の人物をアイナ・ジ・エンドさんがダブルキャストされているため、混乱による不思議な感覚をもたらします。岩井俊二監督の狙うところでもあるのでしょう。そして綺麗な映像と、何と言ってもアイナさんの歌唱が心を打ちます。オフコースの〝さよなら〟久保田早紀さんの〝異邦人〟が効果的に使われてました。


アイナさんが演じているキリエという少女は、口がきけず、歌うことでしか自分の意思を表現できないストリートミュージシャン。彼女は、ある夜、イッコという謎の多い女性と新宿で出会います。その夜、キリエはイッコのアパートに泊まることになり、翌朝、イッコが〈実は?〉というのが分かるのですが、彼女はキリエのマネージャーとなることを買って出るのです。


それからキリエはだんだんと名を上げていき、さあこれからだという時にイッコが突然いなくなってしまうのです。この二人の話を主軸にして、キリエとイッコのそれぞれの過去から現在にいたる13年間のドラマが描かれていきます。その映像や音楽の美しさそのものが本作の魅力なのかと思います。ただ、描かれているエピソードはどれもかなり表面的で、陳腐なところも。


例えば、小学校の先生が公園で暮らす少女を自宅へ連れていき面倒をみる行為(好意)とかは実際にはありえないように感じましたし、医師を目指す高校生の恋愛だとかは家庭でもっと大事になるような気がして。また、さらに、ここに書くことのできないキーとなる出来事の描き方も本当に嫌な面は見せない。怖さや、葛藤、泥くささは意図して裏に隠して、キレイな世界なんですね。


でも、だからこそ、このドラマが愛すべきものになっているのかもしれません。観ていると人の不思議な縁、巡り合わせみたいなものについて感じさせられるんですよね。そしてキリエが、何か目に見えない大きな力で守られていることとか。人の善意というものを信じたくなりました。3時間かけて、個々のエピソードは表層的だけれども、なぜか全体としてはとてもいいもの観た、みたいな感じでした。


こういうのが作家性なんですかね。出演された方はどなたも本当に素晴らしかったです。アイナさんの歌唱力や不思議なダンス、広瀬すずさんがイッコの優しさだけでなく、彼女が抱えている傷と他人には分からない孤独をうまく表現してました。黒木華さん(大阪弁、いいですねー)、松村北斗さんほか、キャラクターにハマっていて、吸い込まれるように観てました。


かなり長い映画なのですが、長いからこそ映画館で観てもらいたいです。歌を聴く映画でもあるので、できたら音響のよいところでご覧いただくのがよいかと思います。


✳︎追記: 

姉妹の話であること、姉が事故(災害)で亡くなること、その後の妹の成長ものがたりであることなど、実は故・大林宣彦さんの「ふたり(91)」との共通点もあり、岩井俊二さんから大林宣彦さんへのオマージュ的な作品なのかもしれません。





トシのオススメ度: 4

5 必見です!!
4 オススメです!
3 良かったです
2 アレレ? もう一つです
1 私はお薦めしません


キリエのうた、の詳細はこちら:公式サイト


この項、終わり。