こんにちは、母さん | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。


こんにちは、母さん


2023年作品/日本/110分

監督 山田洋次

出演 吉永小百合、大泉洋、永野芽郁


2023年10月1日(日)、新宿ピカデリーのシアター7で、8時35分の回を鑑賞しました。


大会社の人事部長として日々神経をすり減らし、家では妻との離婚問題、大学生になった娘・舞との関係に頭を悩ませる神崎昭夫は、久しぶりに母・福江が暮らす東京下町の実家を訪れる。「こんにちは、母さん」しかし、迎えてくれた母の様子が、どうもおかしい(以上、公式サイトからの抜粋)、という物語です。


久しぶりの長めの感想になります。9月1日公開作品なのですが、スクリーンで観ておきたかったので、公開が終わるまでにと駆け込んできました。山田洋次監督、92歳(1931年9月13日生まれなので、製作、公開時は91歳)、90作目となる新作です。これはやはり日本人として観るべき映画、という感じでしょうか。懐古でなく未来に向けた作品でこれ多くの方には観て欲しいです。



《感想です》


  • 母さんの話ももちろん出てはきますが、これ実は息子が主人公のドラマですね
  • 91歳の山田洋次監督による、懐古ではない今の日本社会に向けたメッセージ
  • 小津安二郎に代表される大船調の松竹映画というものに終止符を打つ作品となる


ちょっと今の時代の実際とはズレているんじゃないかなと、特に会社内における騒動の演出には言いたいこもあったのですが、最後までみてどうでもよくなりました。山田洋次監督のこの新作は、素晴らしかったです。日常の中に非日常が飛び込んでくるという十八番の話し運びのなかで、悩みを抱えながら懸命に生きている人たちを描く人間賛歌。大いに共感できました。


主人公は大企業の人事部長を務める昭夫。現在、大リストラを進めている最中で、その中には子供の頃からの友人で同期入社の営業部の木部(きべ)もリストに入っている。しかも家庭では妻と別居中で離婚寸前の危機にあるという、公私ともに大変な状態。そんな昭夫が、娘の舞が駆け込んでいる一人暮らしの母親の住む実家を訪れるところからドラマが始まります。


大企業に就職したもののリストラで仕事を失う従業員。責任の大きな仕事でプレッシャーにストレスをためる部長。夫に先だたれてしまい長く一人暮らしの高齢の母親。生活保護を受けず(受けられず)ホームレス生活を送る高齢者など。多様な人たちが抱える問題を拾いながら、誰もが格好悪くも懸命に生きようとしている。その姿を観ていると他人ごとには思えないです。


人間がもがき苦しみながらも前を向いて歩く姿を、深刻にせずに笑い話、滑稽譚として、ホームドラマのなかで温かく描いていけるのが山田洋次監督作品の面白さですよね。松竹伝統の大船調というのでしょうか、その最後の後継者である山田洋次監督。本作は、山田洋次監督自身によって打たれた終止符とでというべき、大船調最後の作品となるのではないかと思いました。


ドラマのなかで、昭夫がせんべいを齧る場面があります。その時に昭夫が〝こういったものは人間を慰めるためにあるんだな〟としみじみ語るのですが、このセリフは映画作りを、せんべい焼きに喩えたのかなと感じました。映画というのは、疲れた人たちや悩める人たちの人生を、ひととき慰めるためにあるのだと。山田洋次監督の映画ってそういうものが特に多いですよね。


上手く生きられない、世渡り下手な人たちのなかにこそ、人間が失ってはならない大切なものがある。それを感じさせる映画です。これは若い人たちにこそ観て考えてもらいたいものです。なおこの作品では東京大空襲による悲惨な被害についても語られています。そこも含めて、本作には日本人が忘れてはならないもの、守っていかねばならないことが詰まっています。


大泉洋さん(いつもの彼ですが)好演でした。でもああいうタイプは人事部長には会社は絶対にしないと思いますよ、笑。吉永小百合さんの姿ももちろん良かったです。永野芽郁さん、宮藤官九郎さん、寺尾聰さん、そして本作は隅田川と周辺の風景も映画を支える重要な要素ですねー。山田洋次監督、91歳にして素晴らしい作品を見せてくれました。ありがとうございました。





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