LOVE LIFE | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。


LOVE LIFE


2022年作品/日本/123分

監督 深田晃司

出演 木村文乃、永山絢斗、砂田アトム


2022年9月23日(金)、TOHOシネマズシャンテのスクリーン2で、10時40分の回を観賞しました。


再婚した夫・二郎と愛する息子の敬太と、日々の小さな問題を抱えながらも、かけがえのない時間を過ごしていた妙子。しかし、再婚して1年が経とうとしたある日、夫婦は悲しい出来事に襲われる。そして、悲しみに沈む妙子の前に、失踪した前の夫であり敬太の父親でもあるパクが戻ってくる。再会を機に、ろう者であるパクの身の回りの世話をするようになる妙子。一方の二郎も、以前つきあっていた女性の山崎と会っていた。悲しみの先で妙子は、ある選択をする(以上、映画.comからの引用)、という物語です。


「淵に立つ(16)」「よこがお(19)」の深田晃司監督作品。「本気のしるし(20)」は見逃してしまっています。人間の持つ二面性、家族や他人に見せている顔と見せていない顔をスリリングに描きだし、緊張感あるドラマを展開する深田監督。新作の「LOVE LIFE」も一筋縄ではいかない人間の心に迫る力作でした。


人が他人には見せていない心の奥底を露わにしていく嫌らしさ


お話は、大きな集合団地に住む夫婦、二郎と妙子が小学生の息子・敬太の誕生日会の準備をしている姿からスタートします。実は二郎の両親も同じ団地、しかも向かい側に住んでいるのですが、父親も同じ誕生日で、この日は二郎の同僚たちが彼の依頼で、かつての上司であった父親の誕生日祝いにかけつけていました。


二郎と妙子の結婚は略奪愛であること、敬太は二郎の本当の子供でないこと、これらを両親が根に持っていること、妙子と敬太は二郎には分からない手話ができること等々。最初から複雑な人間関係や彼らが置かれている環境を淡々と描いて、このドラマはどこへ向けて進んでいくのだろう?と考えこんでいました。


この辺りの人間関係の設定はかなり作り込み感があって、私は正直少し安っぽさを感じながら観ていたのですが、コマが全部出揃ったところでこの導入が意外な形で幕を閉じます。そして、それをきっかけにして始まるドラマの回収が(大阪弁だと)えげつなかったですね。これは人が他人に見せない心の奥底を露わにする作品でした。


▼予備知識入れないで観ていただきたいドラマでした


本当に見るべきものが見えない人たち、人間って弱くて自分勝手なもの


導入で語られたアレやコレやをベースにしたその後のドラマ。あることをきっかけにして妙子は前の夫、つまり敬太の本当の父親と再会を果たすことになります。名前をパクさんと言って韓国人であり、聴覚障害の聾唖者でもありますが、彼は仕事が持てずに生活に行き詰まっています。妙子はそんな彼を救おうとします。


二郎と妙子はともに役所で働いていて、生活保護の仕事をしているのですが、仕事を超えてパクを助けようとする妙子を横目でみながら、二郎は特に咎めることもありません。普通なら元の夫がいきなり出てきて、自分の妻が世話を焼いているのは嫌だと思うのですが、妙子を問い詰めたり責めることは一切ありません。


なぜなのか?二郎と妙子の間には、埋められない溝が横たわり続けているよう。優しさではなく、二郎は自分の言いたいことを言えない性格。元カノからも人の目を見て話ができないことを指摘されます。一方で妙子は、いつも正面から目を見て対話するものの、周りは見えてなくて、とにかく思い込みが激しい感じです。


目を見るにせよ、見ないにせよ、本当に見るべきものが見えてない二人。それでも、これまで二人は何とか夫婦の形を保ってきたわけです。それがあることをきっかけにして、自分たちが抱えている弱さがいっきに表面化し、心がすれ違って距離が広がっていくのでした。物理的にも妙子は海を渡りパクと韓国へ行くことになります。


▼寡黙で本音を話せない永山絢斗さん、良かったです


これを機に二人が絆を深め新しい生活を築くことができれば


このドラマがどういう着地を見せるかは映画をご覧いただきたいと思います。基本的には夫婦が二人の間に起きた危機を乗り越えられるかどうか?という物語なのでシンプルなはずなのですが、二郎と妙子そしてそこに加わるパクの行動の真意が隠されていて、観客が読み解く作業をしないとならない点、骨が折れます。


この夫婦の間に起きる危機についてはあえてこのブログ内では言及してません。映画.comのドラマの要約も読まないほうがいいと思います。でも、危機の形には色々あるのではないでしょうか。そして、それをどう乗り越えていくのかによって、夫婦というものが単なる呼称から本物の固い絆になっていくのではないかと思います。


もしかしたら、その固い絆の上に日々の生活を築くことができれば、あえて夫婦という形や呼称にこだわらなくてもいいのかもしれません、例えばそのような人生のあり方のことを〝LOVE LIFE 〟だと考えてみるのはどうなのだろうと、映画のラストに染み渡るように流れる矢野顕子さんの歌を聴きながら感じていた次第です。


▼韓国で妙子を待っている事実に苦笑いしか無かった



しかしなんで二郎は家族の反対を押し切って、土壇場で元カノを振ってまでして子供を連れた妙子との結婚を選んだのか。そこがちょっと引っかかってます。もしかしたら、肝心なところを見落としていたのかもしれないのですが。二郎が(聞こえていない)パクに、しかも背中を向けて語った激白の中身が全てでしょうか。


鳩よけのためのベランダのCDの効果、ボードやパソコンのオセロゲームの使い方、向かい合わせになっている団地間の縦から横への移動撮影、手話によるコミュニケーション、など演出が面白いです。ただこれらが何となくあざとくないかという気持ちもしました。特にタイトルの出るタイミングですね。これ要らないかも。


深田晃司監督のオリジナル脚本による力作だと思いますので、ご覧になって感じたり、考えたりしていただきたいと思います。


トシのオススメ度: 4

5 必見です!!
4 お薦めです!
3 良かったです
2 アレレ? もう一つでした
1 私はお薦めしません


LOVE LIFE、の詳細はこちら: 映画.com


この項、終わり。