キングメーカー 大統領を作った男
2021年作品/韓国/123分
監督 ビョン・ソンヒョン
出演 ソル・ギョング、イ・ソンギュン
2022年9月19日(月)、シネマート新宿のスクリーン2で、9時45分の回を観賞しました。
1961年。韓国東北部の江原道で小さな薬局を営むソ・チャンデは、世の中を変えたいという思いから野党の新民党に所属するキム・ウンボムに肩入れし、ウンボムの選挙事務所を訪ねて、選挙に勝つための戦略を提案する。その結果、ウンボムは補欠選挙で初当選を果たし、63年の国会議員選挙では地元で対立候補を破り、新進気鋭の議員として注目を集めるようになる。その後もチャンデは影の参謀として活躍するが、勝利のためには手段を選ばないチャンデに、理想家肌のウンボムは次第に理念の違いを感じるようになり(以上、映画.comからの引用)、という物語です。
1960年代初め、民主化を目指す韓国における選挙戦の裏側を描く実話をベースにした映画になります。先に見た「モガディシュ/脱出までの14日間」もそうでしたが、韓国映画は実話をもとにしても見どころのある人間ドラマとして、またエンタテインメントとしてよく出来た作品に仕立て上げてきて、レベルが高いですね。光と影を効果的に使用した映像も素晴らしかったです。
映画では、キム・ウンボムという名前になっていますが、これは韓国の第15代大統領であったキム・デジュン(金大中)氏のことですね。1973年に日本滞在中にホテルグランドパレスで拉致され行方不明になったことでも有名で、その後も波瀾万丈の政治家人生を歩むわけですが、映画は政治家として活動を始めた初期、落選続きで政界に進出できなかった頃に始まります。
本作は、キム・ウンボムことキム・デジュンの1961年の補欠選挙での初当選、政界入りから、1970年の新民党の大統領候補指名そして1971年の大統領選あたりまでが描かれているのですが、ドラマの主人公はこれらの選挙戦でウンボムを裏側で支え、戦略を立案・実行した当選請負人とも呼ぶべき選挙参謀ソ・チャンデことオム・チャンノクなんですね。この方も実在する方がモデル。
▼演説で熱く訴えかけるが選挙には勝てないウンボム
光が無ければ影はない、影があるところに必ず光はある
軍事政権下にある韓国において、二人の最終的な目的は民主化の実現という点で一致しており、肩をがっちりと組むバディなのです。ただし、ウンボムが表舞台に立ってスポットライトを浴びる存在であるのに対して、チャンデは常に裏方に徹し、決して表に顔を出すことがない影の男なのですね。選挙戦に勝利するために、綺麗事だけではすまされない世界を生きています。
光と影の存在。このあたりは映像としても実にうまく表現されていて一見の価値があります。また影の役割として動き回るチャンデの活躍は手に汗を握る緊張感でこれが面白いのです。しかし、そんな二人の間に考え方の違いが生じ始めます。あくまでも理想論を掲げ、民衆の理解を得て正面から突破しようとするウンボムに、チャンデのやり方が受け入れられなくなるのです。
〝大切なのはどう勝つかではなく、何のために勝つかだ〟というウンボムに対し、チャンデは勝たなければ何も実現できないと考えているわけです。実際にウンボムが当選を重ねて大統領候補指名にまで昇りつめたのは、チャンデ無しには考えられなかったわけですが、一方でチャンデもウンボムという器があってのこと。本当は光と影は補完関係にあり、実は一つなんですよね。
▼選挙参謀のチャンデは逆にひとを巻き込むのが巧い
同じ理想に燃えていたからこそ、ここで切らざるを得なかった
しかし、〝光が強くなればなるほど影は濃くなる〟というセリフがドラマのなかで出てくるように、それだからこそ、上に立つようになればなるほどクリーンでなければならないというのは全くもってそのとおりだと感じました。同じ理想に燃えていたからこそ、ウンボムとしては手段を選ばないカミソリのようなチャンデと組むのは中長期的にみて潮時と考えたのかもしれないですね。
それと本作を観て感じるのは、ここでは描かれていないこの後の長い長い政治的な混乱、光州事件のような悲惨な出来事も含めて、韓国の場合は政治家と国民が自分たちの手で民主化を実現してきたというプロセス、確かな実感があることですね。日本の場合はそれが外からもたらされたために、戦後77年経った今になって、実は大変なことになっているような気もします。
▼この二人が理想の実現のため共に突き進むのですが
トシのオススメ度: 4