サバカン SABAKAN | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。


サバカン SABAKAN


2022年作品/日本/96分

監督 金沢知樹

出演 番家一路、原田琥之祐、竹原ピストル


2022年8月20日(土)、TOHOシネマズ府中のスクリーン4で、8時40分の回を観賞しました。


1986年、夏。斉藤由貴とキン肉マン消しゴムが大好きな小学5年生の久田は、夫婦ゲンカばかりだが愛情深い両親や弟と暮らしている。ある日彼は、家が貧しく同級生から避けられている竹本と、イルカを見るため海へ出かける。溺れそうになったり不良に絡まれたりと様々なトラブルに遭遇しながらも友情を育んでいく久田と竹本だったが、やがて別れを予感させる悲しい事件が起こる(以上、映画.comからの引用)、という物語です。


とても素敵な映画に巡り会えました。チャーミングと言えばいいでしょうか。「サバカン/SABAKAN」は、夏休みももう終わりに近づいているこの時期に観るのにぴったりの作品です。長崎を舞台にしたふたりの小学生のひと夏だけのお話で、ちょっと山中恒さんの児童文学を読んでいるような味わいもあるのですが、大人にこそご覧いただきたい作品です。心に沁みました。


かけがえのない時間って、あとで振り返ってわかるもの


私は小学生の頃は父親の転勤の関係で3つの小学校を経験しています。大阪の枚方市の小学校から父の実家のある(つまり祖父母のいる)岸和田市の小学校へ、そこから香川の高松市の小学校へ行き、そしてまた岸和田市の小学校へと戻っているのです。この中でも高松市で過ごした小学2年から3年の2年間と、そこで一緒に遊んた友だちのことは自分の中の宝物のようです。


八幡神社の裏山に登っての冒険、廃屋のなかに入ってのガラクタ探し(なぜか真空管を集めてた)、自転車での海までの遠乗り(いま思うと大した距離でもなく)、漫画や探偵小説の貸し借り、カミキリやブンブンの虫取り、などなど。いろいろとありましたが、こうやって書いていると懐かしく思い出します。転校生の私と仲良くしてくれたみんな今はどうしてるのかなー。


たった2年間の友だちでしたが、いま振り返ってみるとかけがえのない友だちでした。あの頃、みんなは僕のことを友だちだと思ってくれていたのかなー。僕のこと覚えているかなー。この映画は、そんな幼い頃の自分の輝かしい記憶を久しぶりに呼び起こしてくれました。今はいろいろあって故郷から遠く、幼馴染みとも離れて暮らしているような方々にお勧めしたい作品です。


▼ふたりの少年をつなぐピンク色の自転車です


この家族だからこそ、この子たちありということがよく分かります


長崎県の長与というところが舞台のドラマです。そして、小学5年生の久田くん(久ちゃん)と竹本くん(竹ちゃん)のふたりのひと夏の物語です。竹ちゃんの家庭は貧しいのかいつも2枚切りのヨレヨレのランニングシャツを着て学校へ来ていて、みんなから〝臭い〟と言われていじめられているのですが本人は全く動ぜず。そんな彼に久ちゃんはいつも感心し憧れてています。


ふたりはあることをきっかけに口をきくようになります。夏休みに入ってすぐの日、久ちゃんは竹ちゃんに誘われて、山を越えたところにあるブーメラン島に現れたというイルカを自転車に乗って見にいくことに。この小さな冒険旅行を通してふたりはお互いを友だちと呼び合う仲になっていくのです。この過程で描かれるエピソードが微笑ましくておかしいんですよね。


全部を書いていくとこれからご覧になる方が面白くないので控えますが、ひとつだけ、海岸でお姉さんに焼いてもらって食べるサザエの壷焼き。美味しそうに頬張るふたりの笑顔が最高でした。で、最高なのはこのふたりだけではなく、ふたりの家族もですね。この家族、父親、母親だからこそ、こんないい子たちが育ったんだということがよーく分かる最高の家族なのです。


久ちゃんは4人家族で両親も兄弟もいつもけんかしているのですが、それはコミュニケーション。ざっくばらんで隠し事がなくて、親は本当に子供たちのことを愛しています。竹ちゃんのほうも同じ。いろいろ事情はあっても卑屈にならない。あるがままに皆んなが寄り添って生きているのです。現代の家族が忘れてしまったものを、この二組の家族から学ぶことができます。


▼この家族団欒の風景だって永遠じゃ無いですよね


〝さよなら〟じゃなく〝またね!〟と言える仲って本当にいいです


理想的な家族。でも、これはファンタジーかもしれないですね。本当は親にもいろんな苦労やドロドロしたところもあるかもしれない。また海岸で出会うお姉さんにも何か言いたいことがあったのかも。でもこの映画ではあえてその裏を見せていません。子供たちの視点(記憶)で、彼らが見たことや聞いたことを中心に世界が純化されているところ、そこがいいんだと思います。


映画の冒頭に明かされているのでネタバレじゃないと考えますが、大人になった現代(いま)は久ちゃんと竹ちゃんは離れ離れになっています。海の見える長与の駅の別れのシーンが素晴らしいです。〝さよなら〟じゃないんですよね。何度も何度もふたりが噛み締めるように言う〝またね〟。という言葉。これが友だちですよね。心に響く名ラストシーンだと思いました。


また、その後の久ちゃんを受け止める父親の姿も実に良かった。この父親が普段はだらし無いのに、ここというところでしっかり久ちゃんをケアしているんです。言うことやる事は荒っぽいけど愛情が溢れているのです。竹ちゃんの親戚も人の気持ちが分かるいい方々に見えました。ふたりは周囲の大人たちにも恵まれていましたね。やっぱり環境って大切なんでしょうね。


▼サバカンのタイトルの理由は映画でご確認ください


ちなみに地図で見ると長与の駅から海は見えないんじゃないかなと思います。ブーメラン島も写真でみると形が違いますね。あれは映画のマジックが作り上げた架空の長与の風景なんでしょう。私は監督の鈴木知樹さんのことをこの映画ではじめて知りました。テレビでご活躍されてきて、映画はこれが初監督とのことですが、こんないい映画を出したら後はいらないんじゃないかな、笑


久ちゃん役の番家一路くん、竹ちゃん役の原田琥之祐くん、このふたりのキャラクターいいですね。そして久ちゃんの両親役の竹原ピストルさんと尾野真知子さん、そして竹ちゃんのお母さんの貫地谷しほりさん、本当の夫婦、母親に見えました。素晴らしい。そして殊勲章は久ちゃんの弟を演じた坊や。これまた本当の兄弟のようで、自分の兄弟喧嘩のことを思い出しました。


夏の終わりに観るに相応しい作品です。ぜひ、エンドロールが終わるまで席を立たずにじっくりとご覧になってみてください。


トシのオススメ度: 5

5 必見です!!
4 お薦めです!
3 良かったです
2 アレレ? もう一つでした
1 私はお薦めしません


サバカン、の詳細はこちら: 映画.com


この項、終わり。