プアン/友だちと呼ばせて | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。


プアン/友だちと呼ばせて


2021年作品/タイ/128分

監督 バズ・ブーンビリヤ

出演 トー・タナポップ、アイス・ナッタラット


2022年8月8日(日)、アップリンク吉祥寺のスクリーン4で、9時15分の回を観賞しました。


ニューヨークでバーを経営するタイ出身のボスは、バンコクで暮らす友人ウードから数年ぶりに電話を受ける。ウードは白血病で余命宣告を受けており、ボスに最後の願いを聞いて欲しいと話す。バンコクへ駆けつけたボスが頼まれたのは、ウードが元恋人たちを訪ねる旅の運転手だった。カーステレオから流れる思い出の曲が、かつて2人が親友だった頃の記憶をよみがえらせていく。そして旅が終わりに近づいた時、ウードはボスにある秘密を打ち明ける(以上、映画.conからの引用)、という物語です。


こちらは少し前に劇場に足を運んで観てきた作品です。監督・脚本が「バッド・ジーニアス/危険な天才たち(17)」でとても見応えのあるコン・ゲームを展開してみせたタイのバズ・ブーンビリヤだと知り、これは観ておかないとと思った次第です。今回も観客を惹きつけるストーリーテリングとスタイリッシュな映像で、暗くなりがちな題材を爽やかな仕上がりにしています。


別れた三人の元カノとのエピソードから見えてくるウードの顔


ドラマはニューヨークでバーを経営し自らバーテンダーもしている青年、ボスのところへ深夜に一本の電話がかかってくるとこらから始まります。イケメンで随分と軽い調子のボスへ電話をしてきたのはタイにいる親友のウード。白血病で骨髄移植を拒んだ彼は余命がわずかと言われており、最後にある頼み事がしたくてボスにタイまですぐ戻ってきて欲しいというのでした。


その頼み事とは、ウードが訳あって別れた女性を訪れ、自分の非を詫びたいというものでした。しぶしぶ承知したボスは、既に亡くなっていて過去にラジオのDJをしていたウードの父が残した古いBMWに乗り、カセットテープに録音した父のDJの声と音楽を道連れに女性の元へと旅を始めるのです。さてさて、この男ふたりの珍道中は一体どうなるのか?という展開なのですが。


ちょっとネタバレになってしまうのですが、ウードが訪ねていく女性というのが実はひとりじゃないんですよね。三人もいるのです。ここは驚くというか、まあ笑ってしまいました。ウードはイケメンだし、モテたんでしょうね。羨ましいかぎりです。この女性たちとのエピソードが面白くて、撮り方も絶妙な上に、カセットに入っている音楽とのマッチングも良いのですよね。


▼ウードの元カノを訪ねて周るロードムービーです


ウードの願いに対応することで見えてくるバディのボスの顔


でも別れた彼が忘れた頃に、いや忘れてないかもしれないですが、目の前に突然現れるってどういう感じ何でしょう。男性はロマンチストで、女性はリアリストだと聞きますよね。今の恋人や家族との生活に満足していれば、そこへいきなり〝元カレです〟と言って現れられても困らないですかね。最後に会いたいという気持ち、謝りたいことがあるという点は強く理解できますが。


逆に女性が、何年も経ってから元カレを自ら訪ねて歩くってあるのでしょうか?懐かしく思い出すってことはあるのでしょうが。そんなことを考えながらこのパートを面白く観ていました。で、ここで浮き彫りになっていくのは、女性を訪ね歩く行動については疑問が湧いても、ウードって〝なんかいいやつだな〟ってことですね。優しくて、人間として誠実に見えるんです。


一方で出てきた時からそうなのですが、カクテルをつくるシェーカー捌きが板についていて、女性の扱い方にも慣れているボスの態度は、どこまでもお調子もので軽いということ。ウードの願いを叶えてあげるためにも達者な口とお金で難問を全て解決してしまう、そんな印象です。このふたりの対象的な感じがロードムービーにつきもののバディとして実にうまくいっています。


▼旅の最後にウードはボスに意外なことを告げます


A面からB面へ、悲劇に終わらせずに爽やかに纏めてみせるセンス

さて三人の女性と再会を果たしたウードは、そこでボスに対してもうひとりだけ会わなければならない女性がいることを告げます。その女性とは誰か?ウードが真にボスに伝えたかったこととは?ここまではカセットテープのA面のお話だったのが、ここからはB面に移ることが映像でも示され、ドラマはがらっと様相を変えてきます。ここから先の展開は、ぜひ映画をご覧になってください。


このB面を通して、今度はボスがどういう人間なのかが見えてくるようになっています。そして、そのボスとウードの出会いの話やその後にふたりがどう関わってきたのかもここのパートで明らかにされていくのです。具体的には書けませんが、ここで、ボスの印象もウードの印象もガラッと変わるのですよね。B面はある種のミステリードラマの種明かしっぽさもあり目が離せないです。


このドラマ、不治の病を患っている青年の話で、また人間不信にもなりそうな点もあり、本来ならちょっと暗くて重い内容なんですよね。ところが、映像や音楽の力も手伝って描きかたはすごくポップな感じなんです。そしてラストはとても爽やかで後味の良い終わり方になっていて、結果的にボスにとってもウードにとってもハッピーエンドになっていたように思います。


▼ウードの話で始まった物語はボスの話へと移ります


最初はこれ同性愛(ウードがボスへ思いを寄せている)の話になるのかな?と思ったのですが違いました、笑。いや、映画のストーリーのほうが良かったですよ。これ普通に撮れば通俗的なよくありがちなテレビドラマに陥るところを、映画ならではの語り口、映像と音楽で魅せてくれるんですね。製作総指揮にウォン・カーウァイの名前がありますが、その影響も感じさせます。


核心に触れる部分は書いてないので分かりにくいですが、お話の展開をぜひ映画館で味わっていただきたいです。ちなみに原題の〝One for the Road〟は、〝別れる前の最後の締めの一杯〟を言うんだそうです。日本のタイトル〝プアン〟はタイ語で〝友だち〟なんですね。

トシのオススメ度:4

5 必見です!!
4 お薦めです!
3 良かったです
2 アレレ? もう一つでした
1 私はお薦めしません


プアン、の詳細はこちら: 映画.con


この項、終わり。