ラストナイト・イン・ソーホー
2021年作品/イギリス/115分
監督 エドガー・ライト
出演 アニヤ・テイラー=ジョイ
ファッションデザイナーを夢見て、ロンドンのソーホーにあるデザイン専門学校に入学したエロイーズは、寮生活になじめずアパートで一人暮らしを始める。ある時、夢の中できらびやかな1960年代のソーホーで歌手を目指す美しい女性サンディに出会い、その姿に魅了されたエロイーズは、夜ごと夢の中でサンディを追いかけるようになる。次第に身体も感覚もサンディとシンクロし、夢の中での体験が現実世界にも影響を与え、充実した毎日を送れるようになったエロイーズ。夢の中で何度も60年代ソーホーに繰り出すようになった彼女だったが、ある日、夢の中でサンディが殺されるところを目撃してしまう。さらに現実では謎の亡霊が出現し、エロイーズは徐々に精神をむしばまれていく(以上、映画.comからの引用)、という物語です。
「ベイビー・ドライバー(17)」のエドガー・ライト監督の新作、というよりは「ショーン・オブ・ザ・デッド(04)」の監督としたほうが、ピッタリとくるのかもしれません。私は全く予備知識なしに「ラストナイト・イン・ソーホー」を観たので、まさかこんなホラー映画だとは思ってもおらずビックリしたのですが、考えてみるとエドガー・ライトらしい作品でした。
《感想です》
これも出来るだけ情報を入れずに観た方がいい映画かと思います。両親がおらず祖母に育てられた田舎の女の子エロイーズが、服飾デザイナーになることを夢見て、ロンドンの専門学校へ。寄宿舎生活で同級生たちの陰険なイジメにあった彼女は、外でアパートの一室を借りることに。エロイーズにはある特殊な力があるのですが、その部屋で彼女は不思議な夢を見るように。
このドラマ、学園ものとして始まりながら、ずっと見ていくとお話がどんどん予想のつかない方向へ走っていきます。夢の中に出てくるサンディは憧れの1960年代、その歓楽街のナイトクラブで歌手として成功すべく生きているのですが、エロイーズは彼女の境遇に今の自分を重ねながら、いつしか自身と彼女の区別がつかない状況に。夢と現実の境がなくなっていくのでした。
このドラマを観ていると、当時の男性を中心にした社会の仕組み、芸能界における女性への酷い仕打ちやそれを〝自らが選択したのだ〟として責任を転嫁する男たちの勝手さに胸が悪くなります。成功を夢見ながら都会へ出てきた当時の多くの女性たちが、頼る人もおらずいかに孤独だったか、そして食い物にした男たちにどれほどの憎しみと同時に恐怖を感じていたか。
このエロイーズとサンディの人生が交錯していく様がすごく面白く描かれていて、刺激的な映像は一件の価値ありと思います。まるで〝鏡の国のアリス〟といった感じなのですが、サスペンス演出も含めて、映像の魔術師と言われ「キャリー」や「殺しのドレス」を発表した頃のブライアン・デ・パルマの演出を思い起こさせる不思議でショッキングな世界です。
本作は、過去のさまざまな映画を思い起こさせるドラマが展開するのですが、学園もので始まり、サイコスリラーになり、ホラーになり、ミステリーになるというですね、ごった煮のようなテイストなんです。どこにも比重が置かれてなくて、そのジャンルのなさ、変化を面白がるような感じと言ったらいいでしょうか。ルックがいいので誤解しますが内容は超弩級のB級映画です。
ラストの解釈は観客次第ということで。なお、昔の世界に迷い込むという辺りはウディ・アレンの「ミッドナイト・イン・パリ」を思い出しました。エロイーズのトーマシン・マッケンジー、サンディのアニヤ・テイラー=ジョイのふたりが魅力的。映画好きのかたには、ぜひオススメしたい作品です!
トシのオススメ度: 5
ラストナイト・イン・ソーホー、の詳細はこちら: 映画.com
この項、終わり。