最後の決闘裁判 | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。

最後の決闘裁判


2021年作品/アメリカ/153分

監督 リドリー・スコット

出演 アダム・ドライバー、マット・デイモン


2021年10月30日(土)、池袋グランドシネマサンシャインのシアター8で、13時35分の回を鑑賞しました。


1386年、百年戦争さなかの中世フランスを舞台に、実際に執り行われたフランス史上最後の「決闘裁判」を基にした物語を描く。騎士カルージュの妻マルグリットが、夫の旧友ル・グリに乱暴されたと訴えるが、目撃者もおらず、ル・グリは無実を主張。真実の行方は、カルージュとル・グリによる生死を懸けた「決闘裁判」に委ねられる。勝者は正義と栄光を手に入れ、敗者は罪人として死罪になる。そして、もし夫が負ければ、マルグリットも偽証の罪で火あぶりの刑を受けることになる。人々はカルージュとル・グリ、どちらが裁かれるべきかをめぐり真っ二つに分かれる(以上、映画.comより引用)、という物語です。


こちら上映終了前に何とか観ることができました。これは観ておいて良かったです。83歳のサー・リドリー・スコット監督の新作にして、意欲作。1977年に発表した初映画監督作「デュエリスト/決闘」から40年以上を経ての「ラスト・デュエル」(本作の原題あ)。2時間半の長尺ですが、ラストに向けてどんどん加速度的に面白くなり、見応えありました。必見です!


同じ場所、同じセリフが三度変化し


旦那さんが出張中の自宅で、美しい奥さんが彼の親しい友人にレイプされるという事件が起きます。妻はそのことを帰宅した旦那さんに恐る恐る告白するのですが、その友人は同意の上の行為でありレイプなどとんでもないと頭から否定、この事件は裁判に持ち込まれます。そして、レイプか否かを証明する術がないなか、その判決は旦那さんと友人の〝決闘〟に委ねられます。


簡単に言いますとそんなストーリーで、あんまり珍しくないです。舞台が百年戦争中の中世フランスで、コスチュームプレイとしてのスタイリッシュな映像はリドリー・スコットらしくて〝ほー〟という感じですが、どちらかと言うと退屈なドラマなんです。ところがですね、旦那さんの視点で語られたこのドラマがいちど暗転終了すると、今度は友人の視点で語り直されるのです。


そして観客だけは、同じ場面、同じセリフでも、それが微妙あるいは大胆に変化していることに気づくわけです。そしてさらにその友人視点のドラマが終了すると、さらには奥さんの視点で同じドラマが語り直されるという。しかも、注意深く観ているとその人だけに特有のエピソードもいくつかありまして、それが意外に重要なメッセージだったりもするのですよね。


▼この二人の目にマルグリッドはどう映ったのか


中世仏国を舞台に現代の問題を描く


旦那さんには年老いた母親がおりまして、一つ屋根のしたで同居生活しているわけです。しかし、その母親は息子の若くて綺麗な奥さんには当たりがきついのです。なんだか、昔も今も変わらないですね。奥さんの視点で語られるパートでは、レイプ事件があったあと、この母親が奥さんに言い放つ言葉が冷たく、ドキリとさせられました。当時、女性はみんなそうなんだと。


女性が自立などを考えるのはありえないことで、当時は男の所有物であり、勢力拡大のために政略結婚させれるか、後継の子供を産ませるための道具だったわけですよね。映画のなかでも、牝馬と牡馬(種馬)の印象的なエピソードが出てきますが、友人による奥さんのレイプシーンもかなり動物的に描かれていて、あきらかに友人の姿には馬のイメージが被るようになってます。


では旦那さんは奥さんのことを心から心配しているのかというと、これもまた違っているのですね。どうやらこの男は自分の名誉とかプライドのため、要は世間体を気にしているような感じなのです。結局、被害を受けた(と思われる)女性本人の気持ちなどは、そっちのけ。奥さんは常に孤独なのです。でも、この状態って現代も大して変わっていないのかもしれませんよね。


▼「フリー・ガイ」のジョディ・カマー、別人のよう


最後のDUELが全てを飲み込む迫力


さて、このドラマの大きな見せ場である決闘裁判のシーン。これがフランス最後の決闘裁判になった(そう、このドラマは事実に基づくものなのです)ということなのですが、どちらかというと地味なドラマが繰り返されるなか、最後の最後にテンションを上げてきました。ここのシーンは〝誰の視点〟というこなく描かれるのですが、強いていうならば〝神〟なんでしょうか。


しかし、本人がレイプされたと言っているのに、裁判の過程で散々に嫌な思いをさせられたあげく証明できず、もし旦那さんがこの決闘に負けたら偽証罪で生きたまま火炙りにされるなんて恐ろしすぎ。そして決闘=DUELが始まるのですが、馬上のスピード感ある闘いから、武器を持っての肉弾戦がダイナミックに繰り広げられ息を飲みます。果たしてどちらが勝利を収めるのか。


しかし、いったん決闘が始まってしまうともう男二人も、それを見守る国王も観衆も、レイプされた女性のことなど頭の中から消えてしまっているのですね。単に壮絶な殺し合いを楽しんでいるだけという。被害を受けた奥さんからすると、置き去りにされて何だか白けてしまう感じではないでしょうか。実際、決闘が終わっても、みんな本来の意味を忘れてしまっている有様。


▼この決闘シーンは迫力満点でテンション上がります


黒澤明の「羅生門」にインスパイアされたというドラマのコンセプトは、〝マネ〟になるので当面の間は他のかたは使えそうにないですね。リドリー・スコットの演出と、それに応えたアダム・ドライバー、マット・デイモン、ジョディ・カマーほか俳優のみなさんの演技が素晴らしいです。建設中のノートルダム大聖堂を取り入れた中世フランスの映像も良かったですね。


もしお近くの映画館で上映されていましたら足を運んで観ていただきたいです。


トシのオススメ度:5

5 必見です!!
4 お薦めです!
3 良かったです
2 アレレ? もう一つでした
1 私はお薦めしません


最後の決闘裁判、の詳細はこちら: 映画.com


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