護られなかった者たちへ | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。

護られなかった者たちへ


2021年作品/日本/134分

監督 瀬々敬久

出演 佐藤健、阿部寛、清原果耶


2021年10月3日(日)、TOHOシネマズ府中のスクリーン1で、8時55分の回を鑑賞しました。


東日本大震災から9年後、宮城県内の都市部で全身を縛られたまま放置され餓死させられるという凄惨な連続殺人事件が発生した。被害者はいずれも善人、人格者と言われていた男たちだった。宮城県警捜査一課の笘篠誠一郎は、2つの事件からある共通項を見つけ出す。そんな中、利根泰久が容疑者として捜査線上に浮かび上がる。利根は知人を助けるために放火、傷害事件を起こしたて服役し、刑期を終えて出所したばかりの元模範囚だった。犯人としての決定的な確証がつかめない中、第3の事件が起こってしまう(以上、映画.comからの引用)、という物語です。


瀬々監督の新作。昨年公開された前作「糸」を見損ねたのですが、どうだったでしょうか。私が好きなのは「64ロクヨン/前編(16)」と「8年越しの花嫁(17)」。異色作や問題作が多いのですが、何となくまとまりに欠けたり、無理かあったりして、私が素直に良かった!と感じたのはこの二本です。後者には「護られなかった者たちへ」の佐藤健さんが出演されてますね。


東日本大震災と絡めて社会の歪みを問いかけるドラマ


東日本大震災直後の東北沿岸部の街、津波によって大きな被害と犠牲者を出したこの街の小学校に、被災者が集まり教室で暖をとっているところからドラマは始まります。ここで、身寄りのない老女の遠島けい、両親を失ったカンちゃんと呼ばれる少女、そして無口で他人を寄せ付けようとしない鋭い目つきの青年の利根泰久、この3人が運命の出会いを果たすことになるのです。


そしてこの未曾有の大震災から時が流れて9年後、仙台市で不可解な連続殺人事件が発生します。それを中年のはみ出しものの刑事、笘篠誠一郎が追いかけます。私は原作小説を読んでおらず、まあ映画も予告編以上のことは知らなかったので、ほぼ白紙の状態で鑑賞したのですが、鑑賞予定のある方はできましたら情報をいっさい入れないほうが面白くご覧になれるかと思います。


東日本大震災で多くの方が、様々な理由によって仕事を失い、働きたくても働けなくなるなか、生活困窮者が多く出たであろうことは容易に想像できます。本作は、そのなかでの生活保護受給について触れていくわけですが、ここで描かれているような実態があったのでしょうか。私はセーフティネットがうまく機能しない、このような社会的歪みの存在を初めて知りました。


▼過去のある朴訥な刑事、笘篠を阿部寛さんが好演


訳ありの刑事と犯人が交錯する社会派ミステリー


この生活保護受給制度の実態は、どれくらいの規模感で、どれだけ組織的な行為であったのかなどの事実関係が分からないので語るには慎重さを必要とするのかもしれません。それでも、受給には必ず本人の受け取り意思を確認する必要があることや、種々の事情であ受給を申し出ない、後から断ってくる人たちがいるといった問題に気付かされただけでも観る価値のある作品でした。


しかも、必ずしも福祉保健事務所の対応に一方的に問題があったようには描かれておらず、問題の根っこは複雑であることが分かります。だからといって〝死んでいい人なんてひとりもいない〟というのはこの映画の予告編で利根泰久が話しているとおりなんだろうと思います。そういう背景の中で描かれるミステリーなのですが、全然難しくなく分かりやすいドラマです。


犯人を追いかける笘篠刑事もまた妻と息子を震災で失っており、ずっと心に傷を抱えて生きています。そして、この事件を追いかけるなかで、彼もまたどうしても自分自身の過去とも向き合わざるをえなくなっていくわけです。そして2011年の被災地で笘篠刑事と犯人が交錯していたことが、ラストの余韻に結びついていきます。


▼佐藤健さんの目の鋭さと笑顔のギャップがいいです


愛する人を護ることができなかった者たちへ


そう考えると、この映画はタイトルこそ〝護られなかった者たち〟へと犠牲者に向けたものなっていますが、ドラマで描かれているのは、護ろうとしても叶わなかったことで後悔の念を持ってしまった人たちの物語なのだということが分かります。東日本大震災は犠牲者の方はもちろんのこと、生き残った方々にもまたその後に計り知れないご苦労があったということですね。


それでも、遠島けいとカンちゃんと利根泰久の3人がだんだんと擬似家族のようになっていくところ。みんな失ったものが大きすぎるなかで、一歩一歩、生活を取り戻していくところが本当に丁寧に撮られていて、ここがとても良かったです。〝いってらっしゃい〟そして〝おかえりなさい〟という何でもなくて、日常繰り返されている言葉の重みを感じて、胸が熱くなりました。


東日本大震災から10年が経過するなか、黄色のレインパーカーに象徴された護ることが出来なかった人たちへの思い。また、被害の大きさのなかでこれまで光が当たってこなかった問題にも注目した映画が出てくるのは大切なことだと思います。しかもこの映画、本当に面白かったです。どういう形であれ、東日本大震災を過去のものにせず、語り継ぐ必要があるように感じます。


▼清原果耶さんは、これまでとイメージ変わりました


過去のパートに比べると現在のパートの展開には少し引っかかってしまうところもあるのですが、それよりも映画の本題とは異なるのですが、私が嫌だなと感じたのは、刑事の態度です。笘篠とバディを組む若い刑事、蓮田。あの横柄な態度や口調での公務に吐き気がしました。あれは演出なのでしょうか。勝手なイメージですがリアリティにも欠けているような気がしたんですが。


キャストのみなさん、主役の佐藤健さん、清原果耶さん、阿部寛さんだけでなく、周りの方々も大物揃いですが、本当に素晴らしいです。もし一人だけあげるとしたら、けいを演じた倍賞美津子さんに尽きるかと。今村昌平監督作品で有名だと思いますが、私が若い頃は角川映画でもよく見かけました。久しぶりに拝見しましたが、もうけい婆さんがそこにいるかのようでした。


重たいテーマですが、面白く出来上がっていますので、ぜひじっくりと映画館でご覧になっていただきたいです。


トシのオススメ度:4

5 必見です!!
4 お薦めです!
3 良かったです
2 アレレ? もう一つでした
1 私はお薦めしません


護られなかった者たちへ、の詳細はこちら: 映画.com


この項、終わり。