浜の朝日の嘘つきどもと
2021年作品/日本/114分
監督 タナダユキ
出演 高畑充希、大久保佳代子
2021年9月19日(土)、シアタス調布のシアター2で、8時45分の回を鑑賞しました。
100年近くの間、地元住民の思い出を数多く育んできた福島県の映画館・朝日座。しかし、シネコン全盛の時代の流れには逆らえず、支配人の森田保造はサイレント映画をスクリーンに流しながら、ついに決意を固める。森田が一斗缶に放り込んだ35ミリフィルムに火を着けた瞬間、若い女性がその火に水をかけた。茂木莉子と名乗るその女性は、経営が傾いた朝日座を立て直すため、東京からやってきたという。しかし、朝日座はすでに閉館が決まっており、打つ手がない森田も閉館の意向を変えるつもりはないという(以上、映画.comからの引用)、という物語です。
テレビを観ていると、高畑充希さんと大久保佳代子さんが出ておられて、福島駅前で地元の方から薦められた〝美味しいもの〟を食べに行くという趣向のバラエティ番組をやっていました。確か蕎麦屋とイタリアンだったと思います。その中でお二人が出演しているこの映画の宣伝をされていて、本作の存在を知りました。この映画良かったです。もっと宣伝したらいいかと。
シネコンでは味わえない映画館の話
1991年に閉館した福島県南相馬市に現存している映画館〝朝日座〟を舞台にした物語です。ドラマは、100年もの長きにわたり続いてきた歴史ある映画館を館主の森田保造が経営難から閉館することを決め、最後の上映のあと保存してあったフィルムを燃やしている場面から始まります。そこへ若い旅姿の女性・茂木莉子がやってきて、思いとどまらせようと説得を始めるのです。
私が学生時代はシネコンというものが無く、地元の岸和田市には東宝、東映、日活(当時名称は大劇)系列の三つの映画館があったように記憶します。それが徐々に姿を消し、私が社会人になった頃は唯一残っていた大劇も東岸和田にワーナーマイカルシネマズが誕生したことで廃業されたのではないかと。そして臨海にユナイテッドシネマか誕生するとマイカルも閉館に。
この「浜の朝日の嘘つきどもと」を観ていて、こういった地元に根ざした古い形の映画館のことを思い出しました。まだ映画がデジタル化する前、フィルム上映だった頃を体験されている方々には、このドラマはとても懐かしく、心に迫るものがあるのではないかと思います。放り出されたペンキの看板、狭い切符売り場に入り口のモギリの方。当時はそれが当たり前でした。
▼朝日座で上映した無声映画のフィルムを見る浜野あさひ
過去と現在が交差する語り口の巧みさ
この〝朝日座〟を救おうとする茂木莉子の地域の方々との交流を描くパートでは、映画館から人が離れていった様子が語られています。そしてその映画館を救うために奮闘する彼女の姿が。一方で彼女がなぜそこまで映画または映画館にのめり込むようになったのかというお話が高校生時代に遡って、時間を行きつ戻りつしながら、真相が描かれていく形になっているのです。
この語り口が上手く出来ていて、最後までとても面白く映画を観ることができました。莉子(というのは偽名で本名は〝浜野あさひ〟)を映画の道に引き込んだ女性教師・田中先生との話がとてもいいんです。映画好きの恩師は、東日本大震災後に生き方を見失なっていた莉子に自分の好きな映画を見せながら、彼女を導いていくメンターの役割を果たすのですが、飾り気がないとこが最高です。
田中先生は、1秒間に24コマが流れるフィルムとシャッターの関係について、〝観客は実は半分は暗闇を見ているようなもの〟と映画のマジックを説明(うまく書けないので映画をご覧ください!)。ついでに〝だから映画好きにはネクラが多いのかな〟とも、笑。田中先生と浜野あさひ、そして田中先生の恋人パオくんとの話が、ずっと〝朝日座〟を再興する話に繋がっていくのです。
▼あさひは、恩師から朝日座の再興を託されるのですが
東日本大震災そしてコロナ禍を超え
▼メタボの館主はもう映画館経営を諦めてしまっており
さて、このドラマには後日談があって、それが実はテレビドラマとして2020年10月に放映されたのだそうです。そちらは未見ですが、でも全く問題ありませんでした。キャストではみなさん良かったですが、何と言っても大久保佳代子さんでしょう。本当に自然で、無理がないというか、演じておられることすら忘れて実在してそうな感じがしました。最後の一言も最高でした!
タナダユキさんの新作映画、上映館数が少なすぎます。今、全国で26館です。クチコミで広がるといいな思います。
トシのオススメ度:4
この項、終わり。