孤狼の血 LEVEL2 | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。

孤狼の血 LEVEL2


2021年作品/日本/139分

監督 白石和彌

出演 松坂桃李、鈴木亮平


2021年9月5日(日)、TOHOシネマズ府中のスクリーン7で、8時25分の回を鑑賞しました。


3年前に暴力組織の抗争に巻き込まれて殺害された、伝説のマル暴刑事・大上の跡を継ぎ、広島の裏社会を治める刑事・日岡。権力を用い、裏の社会を取り仕切る日岡に立ちはだかったのは、上林組組長・上林成浩だった。悪魔のような上林によって、呉原の危うい秩序が崩れていく(以上、映画.comからの引用)、という物語です。


ようやく観てきました。白石和彌監督の新作にして「孤狼の血」の続編となる「LEVEL2」。しかし、こちらは柚月裕子さんの原作ではなく、なんと白石和彌さんと池上純哉さんによるオリジナル脚本なのですね。そしてこの後に続くのが、柚月さんの書かれた本当の続編「狂犬の眼」になるという。どうして間にこの「LEVEL2」を入れたのか理由はさておき、前作には遥かに及ばないまでも、こちらもなかなか面白かったですよ。


主役を食ってしまう悪役上林の魅力


舞台は平成三年の(架空の街となっている)呉原市と広島市。呉は呉原になっているのですが、なぜか広島は広島のままというのが不思議。しかし、この平成三年というのが、まさに私が広島と呉で仕事をしていた頃でして、当時はバブル真っ盛りという感じで、夜の街は賑やかでしたね。私もよく営業でお世話になっていたのもこの頃です。そのとき裏では、こんな物騒なことが起きていたなんて。いや架空の話ですけどね。


今回はとにかく、凶暴すぎて手がつけられない悪役の上林の存在感が凄まじかったですね。上林組は五十子組に忠誠を立てていましたが、彼が出所してくると、平成四年三月に施行される暴力団対策法を目前にして五十子組は綿船組と手打ちをしており、仁正会としていまは共同体になっていました。上林はそれが気に入らずに暴走機関車のようになり、誰だろうが自分の気に入らない相手を次々に手にかけていくのでした。


これでは、せっかく平和になった呉原、広島が無法地帯に戻ってしまうと、マル暴担当の日岡刑事が暗躍するというお話です。前作でマル暴の担当だった大上の遺志を継ぐ日高ですが、あれから3年、まだまだ形ばかりで腰が座っていないというか、モンスターのような上林の前ではヒヨッコに見えるのですよね。絶対に勝てそうにない。この格の違いは狙ったものだと思うのですが、続編は善玉が弱いというのは定石ではあります。


▼目ん玉をくり抜いてしまう上林の心の闇に迫ります


日岡が大上の真の後継者になるまで


なので本作は、まだ大上の影響が仁正会や敵対する尾谷組に残るなかで、日岡自身がマル暴刑事としての覚悟を決め、真の後継者になっていくための試練の章とでもいうべきドラマになっているように感じました。そのために、彼自身の読みの甘さだとか、本来的に人のいいところが、全部裏目に出ていくという感じになっています。彼にとっては、もう自分の不甲斐なさを呪うしかないような展開が待ち受けていましたねー。


前作では大上から〝広島大学出身の学士様〟と揶揄されていた日岡ですが、もともと大上にも彼が大上のことを内偵していたことは最初からバレていたように、彼の相手はいつも自身よりも一枚も二枚も上手なのですね。なので、上林からも〝なんかおかしい〟と思われてしまうのです。日岡の浅知恵が味方を危険に晒していくというですね、そのあたりはドラマの面白い部分でもあるので具体的には書けないのですが。


前作の「孤狼の血」では、日岡が大上を観察しながら最初は彼の行動、やり方に疑問を持つものの、やがては警察内部の腐敗に気づき、また大上の市民を守り抜くための孤高の戦いを理解し、彼がマル暴を引き継ぐというところが感動的にすら描かれていました。今回はそのような師弟関係が、日岡と彼のスパイとして活躍する近田の関係に受け継がれていて、そこの展開が大きな見どころになっていると言えるかと思います。


▼定年間近の刑事とバディを組むのは「野良犬」かな


いちばん悪いやつはいったい誰だ!


まあ、暴力団側も警察内部も信用ならない連中ばかりが登場するわけですが、この中で唯ひとり、在日日本人の近田が本当にまっすぐな正義を見せるのですよね。〝このままでは広島はメチャクチャになってしまう。俺は日岡さんがやっていることは正しいと思う〟と、反対する姉に語って聞かせる場面、ちょっと泣かせるんですよね。私は「LEVEL2」の物語における影の主役は、近田なんじゃないかと感じながら観ておりました。


この映画では、上林が子供の頃のエピソードが登場します。アルコール中毒の父に酒を飲ませるために泥棒までさせられた過去。原爆ドームが不思議な感じで映るこの回想場面がインパクトあるのですが、ここで上林もまた在日日本人であることが分かるようになっています。近田もまた同じ境遇なのですね。私は上林は実は近田に自分の過去の姿を重ね、もしかしたら弟のように感じた瞬間すらあったのではないかと思いました。


それに比べると主人公の日岡自身にまつわるドラマがほとんどないですね。事件のなかで動き回っていて、何かしらやってはいますが実はドラマらしいドラマがない。「孤狼の血」よりも20分も時間が長いのに、そこがですね「LEVEL2」は弱いところなんじゃないですかねー。でも、悪い奴らがいっぱい出てきて、エンタテインメントとして飽きさせませんし、比べなければこれはこれで絶対に面白い作品だと思います。


▼上林と近田の二人がこの映画の真の主人公のよう


とにかく本作の最強最悪の上林を演じた鈴木亮平さんが凄かったですね。怖い怖い。これはどなたも絶賛されているようです。永野芽郁さんと共演された「俺物語!!(15)」とか観ていますが、同じ人間とは考えられないですよね。松坂桃李さんも、汚れ役が似合う感じになってきましたね。でも、成りきれない弱さみたいなのが付き纏っていて、そこがまた良かったように思いました。それと近田(チンタ)役の村上虹郎さんも素晴らしかったです。


これは次作があるんでしょうか?あるのなら早く観たいですが、その時には、今度こそ日岡がどんなふうに成長しているかが楽しみです。


トシのオススメ度:4

5 必見です!!
4 お薦めです!
3 良かったです
2 アレレ? もう一つでした
1 私はお薦めしません


孤狼の血LEVEL2、の詳細はこちら: 映画.com


この項、終わり。