夕凪の街 桜の国(DVD) | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。

夕凪の街 桜の国(DVD)


2007年作品/日本/118分

監督 佐々部清

出演 麻生久美子、田中麗奈、藤村志保


原爆投下から13年後の広島に暮らす平野皆実は、被爆体験による深い心の傷を抱えて生きていた。それから半世紀後、皆実の弟・旭は家族に黙って広島へと向かう。娘の七波は父を心配して後を追ううちに、自分のルーツを見つめ直していく(以上、映画.comからの引用)、という物語です。


2021年8月6日(金)の午後、自宅で鑑賞しました。


私は仕事の関係で、1988年から1993年まで広島市東区の牛田というところで暮らしていました。そして、ママさんの実家も広島市の南区にあります。丸5年も仕事で暮らしていると、地元の大阪よりも広島に詳しくなったり思い出もいっぱいで、第二の故郷のように感じています。仕事は専ら流川、薬研堀でしたが、山と海が近くて、食べ物は美味しく、人は温かく。でも夏は本当に暑かったですねー。〝凪〟といって夕方に風が止むんですね。



《感想です》


今日は8月6日です。何の日かは言わずもがなです。でもあまりの報道の少なさに驚いています。報道はオリンピックのメダル速報とコロナウィルスの感染者数ばかり。大袈裟なことを言うつもりは全くありませんが、オリンピック競技のために来日している方々には、せっかく日本で8月6日という日を迎えるならば、今日という日がどういう日かを知ってもらいたいなあ、と感じたしだいです。そういうなかでの「夕凪の街、桜の国」の鑑賞でした。


原子爆弾が長期に亘って〝家族〟というものを壊していく姿を、これだけ克明に、生々しく、かつドラマとしてもきちんと見せる形で描ききった映画は近年には無いのではないでしょうか。原作は「この世界の片隅に」の、こうの史代さんですが、これは「この世界の片隅に」の延長線上にある作品になっています。原爆を投下された日から13年が経った広島が舞台で、ここで登場するのは川縁に無数作られたバラックです。


そのバラックの前に建てられている看板「不法占拠禁止」という言葉が、無言のうちに観るものの目をとらえて放しません。これが何を意味するのかは、観客がそれぞれに考えることになります。この映画では、はっきり見せるものと、見せないもの、描くこと、描かないことの判断、抑制が効いていて、そこに作り手の〝原子爆弾〟を取り巻く様々な問題に対する思慮と、作品に向き合う真摯な姿勢というものを感じさせます。


幸せになることに恐怖を感じるって、一体どれだけの不幸なんでしょう。そんなことを思いながら青春時代を過ごさねばならなかった人たちがいたということ。この映画のメッセージは、そういう人の思いを〝忘れないこと、語り継ぐこと〟だと思います。原爆投下という問題は一時のことでなく、現在にも尾を引いていることを、本作は二部構成だからこそ可能な物語で知らしめてくれます。つまり第二部こそが重要なんだと思います。


うちのママさんは子供の頃に、父方の祖父母からその日のことをよく聞いていたらしく、私も又聞きですが少し教えてもらいました。今の広島は、街は整備されて緑も豊かな本当に美しい街です。そして、原爆投下から76年、語り部はどんどんお亡くなりになっています。この街が焼け野原だったなんて、これから10年、20年経てば誰が信じるでしょうか。だからこそ、そこで何があったのかを忘れず、伝えることが大切なのかと。


母親役の藤村志保さん、その娘の麻生久美子さん、さらに姪にあたる田中麗奈さん、どなたの演技も素晴らしいの一言です。私はこの作品、今回が初見でしたが、とにかく一人でも多くの方にご覧いただきたい作品です。グローバル化のなかで多様性もいいですが、日本が忘れてはいけないこと、日本だからこそ発信できるメッセージがあるような気がするのですよね。それを失ってしまったら、何にもなくなってしまいます。


そんなことを感じながら過ごした2021年の8月6日でした。


✳︎ちなみに広島市にお住まいの方はすぐ気づくと思いますが、ふじみ(富士見)、皆実、翠、旭という4人の人物の名前は、広島市内の町名ですね。





トシのオススメ度:5
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2 アレレ? もう一つでした
1 私はお薦めしません


夕凪の街、桜の国、の詳細はこちら: 映画.com


この項、終わり。