少年の君 | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。

少年の君


2019年作品/中国・香港/135分

監督 デレク・ツァン

出演 チョウ・ドンユウィ、イー・ヤンチェンシー


2021年7月25日(日)、新宿武蔵野館の劇場3で10時の回を鑑賞しました。


進学校に通う高校3年生の少女チェン・ニェンは、大学入試を控え殺伐とした校内で、ひたすら参考書に向かい息を潜めて日々をやり過ごしていた。しかし、同級生がいじめを苦に飛び降り自殺を遂げ、チェン・ニェンが新たないじめの標的になってしまう。彼女の学費のため犯罪まがいの商売をしている母親以外に身寄りはなく、頼る人もいない。そんなある日、下校途中の彼女は集団暴行を受けている少年を目撃し、その少年シャオベイをとっさに救う。優等生と不良という対極的な存在でありながらも、それぞれ孤独を抱える2人は次第に心を通わせていく(以上、映画.comからの引用)、という物語です。


久しぶりの新宿武蔵野館での観賞です。そして、これもまた久しぶりの中国映画。私がフォローさせていただいているレビュワーの方々の評価が気になったもので、「17歳の瞳に映る世界」と迷ったあげくに、こちらを選択しました。これは何というか、日本だと陳腐な青春映画に落ちてしまうようなところを、重厚なドラマに仕立てあげた監督の演出と、主演のお二人の瑞々しさがとにかく素晴らしくて、お薦めしたい作品でした。


中国にみる深刻な受験といじめ問題


日本では私が学生の頃には〝受験戦争〟や〝受験地獄〟という言葉をよく目にしました。今から約40年前の話でしょうか。とにかくいい学校に入学し、いい会社に就職することが幸せになる最大の近道であるという揺るぎない価値観のようなものが社会の常識になっていたんですかね。根拠なんて無かったのに。そして、受験人口と誰もが都市部の大学を目指した結果、首都圏や関西圏の大学の競争率が跳ねあがったんですね。


それからいじめの問題。これももしかしたら、こういう受験の問題と同じ頃に表面化してきたような気もします。Google先生で検索してみますと、奈良教育大学の調査にいじめ問題の発生件数の第1のピークは1985年(昭和60年)前後とありますので、やっぱり重なっているような気がします。偏差値至上主義、詰め込み型の教育のなか、心の余裕や人の痛みが感じられなくなって、そのストレスが弱いものに向いていったのか。


さて、前置きばかりが長くなりましたが、「少年の君」で描かれているのは、日本以上に過酷な中国における受験戦争と、そのなかで起きたいじめの問題でした。中国の最高学府である北京大学か精華大学に入ること、それこそが成功と信じて疑わない高校三年の生徒たち。事件はその進学校の中で起きます。ある日、その高校の中庭で女子生徒の自殺者が出るのです。その女子生徒は日頃から悪質ないじめを受けていたのですね。


▼路上で袋叩きにあっている少年を見かねたチェン


純度の極めて高い小さな恋の物語り


ドラマは、いじめの矛先が、その女子生徒と接点のあった小柄な女子チェンに向くところから始まります。チェンは、違法な化粧品を販売する母親が留守をしているなかで、独り暮らしをしています。母親に対する誹謗中傷にも耐え、北京大学へ合格することだけを夢みて勉強に打ち込んでいるのです。しかし、とんでもないいじめのなかで、もう勉強どころの話では無くなってくるのですが、そこへシャオベイという不良少年が現れます。


この映画は、中国における受験の歪さといじめの問題を背景にしながら、この少年少女の初恋の物語りになっています。この二人の出会いの場面が、いきなり二人にとってのファーストキスになってしまうのですが、これがうまくラストにまで活かされていて切ないのですよね。チェンに対し〝自分が守ってやる〟と、ボディガードを引き受けるシャオベイ。守る者と守られる者の距離感が何とも言えない緊張感をもたらします。


チェンに対するいじめを通り越した犯罪のような行為が本当に酷くて、目を覆いたくなります。どん底にいる二人にしか分かり合えないお互いの心の痛み。しかし、二人が取った行動がなぜか悪い方へと転がっていってしまうのです。チェンに理解を示す刑事も出てきてサポートをしてくれるのですが、映画において刑事は大抵の場合、肝心の場面において無能です。小さな二人はどうなるのか、映画はサスペンスにも溢れています。


▼三人組の女子生徒たちがチェンをいじめの標的に


少女の未来が少年にとっての未来に


チェンにいじめを加える女子生徒というのは、頭も決して悪くないのであろうし、顔もスタイルも抜群によく、おまけに家庭も裕福なよう。なのに獲物をみつけては陰湿ないじめを繰り返す。いじめを受けたものは、自分がいじめられたくないものだから、恐怖に負けて他の生贄を差し出すように。そして、いじめを見て見ないふりが出来なかったチェンは、正しい行いをしたがために最悪の状況に追い込まれていくのです。


何というかこの理不尽な世界が何とかならないものかと感じながら映画を観ていました。彼女を救えるのはシャオベイだけ。信じあえるのはこの世界にチェンとシャオベイの二人きりしかいない。やがて、この二人に予期せぬ殺人事件の容疑者としての嫌疑が降りかかってくるのですが、自分に明るい未来などないと悟るシャオベイは、自分のすべてをかけてチェンの未来を守ろうとします。この彼の純粋さに心を打たれます。


夢を叶えようとする少女を守ろうとする未来の無い少年。彼にとっては、チェンの夢を叶えることをもってして、自分の夢を叶えることになるのだという、何とも悲しみに溢れたドラマです。この二人を目の前にして、教師、両親、警察など大人たちはあまりに何も出来なさ過ぎ、無能で無力すぎて、観ていて腹が立って仕方がありませんでした。これはドラマの中の出来事であり、現実は異なることを祈るばかりです。


▼エスカレートする犯罪のようなチェンへのいじめ


ドラマに目新しさは無いのですが、語り方と見せ方が巧くて、ぐいぐい引き込まれました。映像もすごく綺麗。何といっても、チェンを演じたチョウ・ドンユウィさんですが、撮影時にはたぶん25-26歳だったのだろうと思うのですが、見事に高校三年生の女子生徒を、身体をはって演じておられました。映画の最初と最後に大人になった英語教師のチェンが出てくるのですが、高校生が大人を演じたのかと勘違いしてしまいました。


チェンが昔を振り返るラストも余韻があって良かったのに、最後の最後に余計な宣伝が付いていて興醒めですかねー。


トシのオススメ度:3
5 必見です!!
4 お薦めです!
3 良かったです
2 アレレ? もう一つでした
1 私はお薦めしません


少年の君、の詳細はこちら: 映画.com


この項、終わり。