秀子の車掌さん(YouTube ): 成瀬巳喜男 | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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秀子の車掌さん(YouTube )


1941年作品/日本/54分

監督 成瀬巳喜男

出演 高峰秀子、藤原鶏太(藤原鎌足)


2021年5月14日(金)の深夜に、自宅にて鑑賞しました。


バスガールのおこまは、お客さんに喜んでもらおうと沿線の名所案内を思いつき、<その原稿を旅館に逗留していた作家・井川に依頼した。 バス会社の社長も賛成し、話はとんとん拍子に進んでいくが(以上、Amazonの商品情報からの引用)、という物語です。

タイトルに〝秀子の〟とつくくらいなので、いかに当時の高峰秀子さんの人気が高かったかということなのでしょうね。今でいうアイドルでありスターであり、子供の頃から晩年まで〝映画で〟主役を務めたというのですから大女優なのだと思います。一方で人を寄せ付けない美しさではなく、親しみやすい笑顔で、万人から愛され続けたことも納得です。「秀子の車掌さん」はそんな高峰さんの17歳の時のプログラムピクチャーですね。




《感想です》

本作は、アイドル主演の軽いコメディとみることもできるし、経営者と労働者の間にある埋められない溝を巧みに描いた社会派作品と深読みすることも可能だと思います。新たに開発された路線バスの影響で経営が成り立たなくなった小さなバス会社の社員が、バスガイドの導入というアイデアを社長へ提案し、それが採用されるのです。しかし、裏では実は身売りが着々と進められていたというバッドエンドのドラマなのですね。

オンボロのガタが来たボンネットバスが、山梨の山間の田舎を走る軽妙さ。車掌の高峰秀子さんと運転手の藤原鶏太さんのやり取りの可笑しいです。甲州街道のどのあたりなのでしょうか。バスが長閑な田園風景のなかをガタゴト、ガタゴトと走る姿が実にいいです。バスのなかには窓ごとに一輪挿しがくくりつけてあり、そこに挿された花(見るからにその辺りに生えている花なんですが)が、乗客の気持ちを和らげてくれます。

女学生たちはバスのなかで学校で習ってきた歌を合唱して笑っている。大勢の子供たちと大きな荷物を背負ったお母さんが乗り込んでくる。そういう昔の日本の懐かしい風景を見ているのもまた楽しいです。ライバルのバス会社の名前が〝開発バス〟といい、開発という言葉が新しさを感じさせる時代だったのでしょうかね。その名前のもとに日本から日本らしい風景というものがどんどん消えていく時代を切りとっています。

それと同時にこのドラマもまた女性の自立を本当に自然に描いていますね。経営危機を乗り越えるためにバスガイド導入を提案し、みずから原稿を小説家の先生に依頼して、練習してやってみせるという。自分の仕事を楽しみ、しっかりとやり遂げたいという心意気が実に爽やかです。バスの運転手もあくせく働かない。自分の職務を全うするという職人ですね。でも、そこがいいのです。二人の掛け合いを見てるとほんと楽しい。

このドラマは夏の物語ですので、バス会社の社長が事務員に来客があるたびに、〝氷とラムネ!〟というのがおかしいです。カキ氷にラムネ(甘いソーダ水のことですね)をかけて食べるのですが、これが何とも見ていると美味しそうでして。こんな呑気そうな社長ですが、裏では実は!というところが食わせもの、タヌキなんです。冒頭に書きましたように、そこに経営者と従業員の間に横たわる大きな溝、悲喜劇を感じさせます。

「秀子の車掌さん」は、成瀬巳喜男監督が初めて高峰秀子さんを起用した作品になります。画像はいまいちですが、YouTubeでご覧いただけますよー。



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