ラストレター | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。

ラストレター

 

2020年作品/日本/121分

監督 岩井俊二 

出演 松たか子、広瀬すず

 

1月24日(金)、新宿バルト9のシアター6で、19時45分の回を鑑賞しました、

 

姉・未咲の葬儀に参列した裕里は、未咲の娘・鮎美から、未咲宛ての同窓会の案内状と未咲が鮎美に遺した手紙の存在を告げられる。未咲の死を知らせるため同窓会へ行く裕里だったが、学校の人気者だった姉と勘違いされてしまう。そこで初恋の相手・鏡史郎と再会した彼女は、未咲のふりをしたまま彼と文通することに。やがて、その手紙が鮎美のもとへ届いてしまったことで、鮎美は鏡史郎と未咲、そして裕里の学生時代の淡い初恋の思い出をたどりはじめる(以上、映画.comからの抜粋)です。

 

岩井俊二さんの作品は「Love Letter(95)」「スワロウテイル(96)」は観ていて、その後は私の映画の空白期間と重なって未見のものが続いていた状態なのですが、映画鑑賞を再開し出して「リップヴァンウィンクルの花嫁(16)」は観ました。「ラストレター」は予告編で〝なんだ、そのままLove Letterじゃないか〟と思ったのですが、これは仕掛けは同じでも25年を経た今の岩井俊二さんだからこそ描ける〝苦さと残酷さ〟を兼ね備えた別の作品でした。人を選ぶのかもしれませんが、私は好きな作品です。

 

志半ばの小説家の喪失と再生のものがたり

 

亡くなった姉の未咲の訃報を伝えるために、姉の代わりに高校の同窓会に出かけた裕里は、みんなから姉本人と間違われてしまった上に、自分の初恋の相手である小説家の乙坂鏡史郎から声をかけられます。鏡史郎は未咲と裕里の共通の知り合いであり、彼は姉・未咲のほうに恋をしていたのです。その後、鏡史郎から姉・未咲宛の手紙を受け取った裕里は、姉に成りすまして彼との手紙のやり取りを始め、お互いに遠い高校時代を懐かしく思い出していくことになります。

 

手紙のやり取りを通じながら、過去と現在の時制を行き来しつつ、双方に何があったのかを段階的に紡ぎ出していくという構成は「Love Letter」と同じですよね。25年前の「Love Letter」の頃はスマホどころかインターネットすら一般的でなかった時代ですから、手紙でコミュニケーションするということに何の違和感も無く入り込めたのですが、今の時代に手紙という方法を持ち出すためにはそれなりに工夫が必要になるわけでして、その辺りの大人の事情というのが笑えました。

 

このようにドラマの最初は、姉・未咲の葬儀をきっかけにして、どちらかというと裕里の視点を中心に進行していきます。過去の高校時代の描写も、裕里の鏡史郎へ片思いが何とも切ないのですよね。ところが、鏡史郎が未咲を訪ねて東京から仙台へ遂にやってくるあたりから、完全にドラマは彼を中心に回りだし、改めてこの映画は乙坂鏡史郎という小説家として道半ばにある人生にくたびれかけた中年男性の喪失と再生のドラマだということが明確に見えてきます。

 

▼〝拝啓、乙坂鏡史郎さま〟、松たか子さん相変わらずうまい

 

自分にはどうにもならなかった恋だってある

 

仙台へやってきた鏡史郎は、手紙に書かれてあった住所を訪ね、そこで未咲ではなく、その妹の裕里と出会います。そして、そこで彼女から姉の死を含め、事の一部始終を聞くことになります。映画のなかでは多くは語られていませんが、鏡史郎と未咲は大学生の頃に付き合っていたこともあったよう。しかし、結果的にふたりの仲はうまく行かず、未咲は鏡史郎の友人である阿藤を選択し、結婚したのでした。ただし、その結婚は幸せなものではなかったというのですね。

 

ここで鏡史郎は阿藤と再会することになるのですが、この阿藤がメフィストと呼ぶのが相応しいような悪魔的な人物なのです。未咲が死んだ直接の原因が阿藤にあると感じていた鏡史郎ですが、逆に彼の舌鋒に完膚なきまでにやり込められてしまいます(この阿藤と彼の今の妻を演じているのが「Love Letter」に出演していた豊川悦司と中山美穂!)。後悔に打ちひしがれる鏡史郎なのですが、ここで極めて映画ならではの、素晴らしい奇跡が起きます。

 

仙台を去る前に、建て直しのために取り壊しが決まった高校に足を向けた鏡史郎は、そこで亡くなったはずの未咲の亡霊と再会するのです。ここから先が、この映画の本当の見どころになっていきます。そして明らかになる誰にも知られていない鏡史郎と未咲のふたりだけが知っている物語。ここに鏡史郎だけでなく、もうひとり、深い喪失から救われる人物がいるのです。あまり書いてしまうと面白くないので、詳細はぜひ映画をご覧いただいて確認ください。

 

▼裕里の学生時代を演じた森七菜さん、驚くほど良かったです

 

未咲からの鏡史郎や妹・娘への贈りもの

 

私は女性の方が初恋というものとどう向き合っておられるのかはよく分かりません。ただ、この「ラストレター」を観ていると、鏡史郎が未咲との恋に縛り続けられているのに対して、裕里は漫画家(文字ではなく絵で物語を紡ぐ人)と結婚して二人の子供をもうけすっかり生活臭が付いているのをみると、根本的に男女では恋愛に対する回路が違うのかなと感じたりも。ただ、裕里が結婚した旦那さん(庵野氏)の容姿が何となく鏡史郎(福山氏)に似ていて、引きずっているような気もします。

 

何れにしても、あの頃の若い日々というのはもどってくることはないのですよね。高校時代の思い出の場所を訪ねて歩く鏡史郎は、まるで巡礼者のようでもありました。そして、その風景を小さなキャメラのフィルムに大切に定着させることで、過去を永遠に封じ込めようとしているかのよう。最後に、傘をさす二人の少女の姿を撮影し、アルバムに収めることで、鏡史郎はようやく次の人生に向かっての一歩を踏み出すことができるようになったような気がします。

 

そして、この出会いこそが、亡くなった未咲からの、これから生きていく鏡史郎や妹の裕里、そして娘たちへの贈り物だったのでしょう。仏壇の遺影を通じて、まるで未咲が、彼と娘たちを見守っているかのようでした。この映画では、今という時には未咲は存在しないのですが、にもかかわらず終始強い存在感をもって鏡史郎をはじめとするみんなのそばにいる感じがするというのが、岩井俊二監督のすぐれた演出手腕のなせるところなのかと思います。

 

▼書けない小説家の福山雅治さん、何してもかっこいいですね

 

福山雅治さん、松たか子さんに加えて、一人二役をされた広瀬すずさん、森七菜さん、そして神木隆之介さん、どなたも素晴らしい演技を見せてくれています。また、ドローンを使って撮影された仙台の風景を中心に映像もいつもながらに美しいです。滝の流れる音や蝉(ひぐらし)の鳴く声などが、ちょっと強調されすぎていて不自然な感じもしましたが、記憶の中っていうのは案外そういうところがあるのかもしれないですね。

 

いい作品だと思います。〝信じるものを追いかけてください、あなたは私のヒーローだから〟。過去は過去で大切にしながも、少しずつ前へ向けて進みたいですね。

 

トシのオススメ度:4

5 必見です!!

4 お薦めです!

3 良かったです

2 アレレ?もう一つです

1 私はお薦めしません

 

ラストレター、の詳細はこちら:映画.com


この項、終わり。