女王陛下のお気に入り | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。

女王陛下のお気に入り

2018年作品/アイルランド・英・米/120分
監督 ヨルゴス・ランティモス
出演 オリビア・コールマン、エマ・ストーン

2月15日(土)、渋谷シネクイントのスクリーン1で、10時15分の回を鑑賞しました。

18世紀初頭、フランスとの戦争下にあるイングランド。女王アンの幼なじみレディ・サラは、病身で気まぐれな女王を動かし絶大な権力を握っていた。そんな中、没落した貴族の娘でサラの従妹にあたるアビゲイルが宮廷に現れ、サラの働きかけもあり、アン女王の侍女として仕えることになる。サラはアビゲイルを支配下に置くが、一方でアビゲイルは再び貴族の地位に返り咲く機会を狙っていた。戦争をめぐる政治的駆け引きが繰り広げられる中、女王のお気に入りになることでチャンスをつかもうとするアビゲイルだったが(以上、映画.comより抜粋)、という物語です。

一癖も二癖もあった「聖なる鹿殺し/キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア(17)」のギリシャ人監督ヨルゴス・ランティモスによる新作。前作もホラーであってコメディの味わいがありましたが、今回もサスペンスでありコメディかと。でもゲラゲラと笑うようなものじゃないんですね。

〝クスッ〟あるいは〝ニヤッ〟という感じですね。そして、壮麗な宮廷での優雅な恋愛ドラマを期待してご覧になった方は、エログロっぽさに驚くことでしょう。でも、「聖なる鹿殺し」よりもずっと分かりやすいし、こちらの方が多くの方に受け入れらるのでは。私はもう一度観たいです。

女王と二人の女官の争い、漫画っぼいキャラ立ちが最高

この映画は、ピューリタン革命、名誉革命という二つの革命を通じてイギリス絶対王政が終焉を迎え、議会政治が主導権を握るようになった18世紀初頭が舞台となっています。議会には王政を重視するトーリー党と議会を重視するホイッグ党という党派があり、英仏戦争を巡り対立しています。

当時のイギリスの統治者はアン女王。映画は、彼女に取り入った実在の二人の女官、サラとアビゲイルの、醜くておぞましい争いをブラックユーモアをまぶしながら描いていきます。この3人のキャラクターがですね、漫画のように分かりやすい描き分けかたをされていて映画を面白くしています。

アン女王は、醜悪なまでにデップリと太り、痛風に悩まされて一人では歩くこともできない状態。でも金と権力は持っていて何でも思い通りにできるという厭らしさ。そんな彼女も国政を仕切る重責のなかで、17人もの子供を死産、流産を含めて亡くしており、その半端ない孤独感が可哀想な気も。

そしてサラは、前線に立つ夫に代わって国政を仕切りアン女王の信頼を勝ち得ているタカラヅカの男役のような凛々しさ。一方でアビゲイルは可愛らしくて誰もがつい気を許してしまう愛想良しだけれども、実は勝気で上昇志向が強く、裏で舌を出しているような油断ならなさを持っているのですね。

▼アン女王は何でもブランデーを飲みすぎて太ったとか

広角レンズが作り出すゆがんだ世界に蠢く怪物たち

そんな3人の女性は実は血縁関係にあり、まさに骨肉相食む模様を呈し出すのです。男の嫉妬ほどみっともないものはないと言いますが、豪華絢爛な王宮を舞台に繰り広げられるこの女性たちの三角関係のうちに見えてくる嫉妬心には怖いものがありますね。その怖さが逆に可笑しくなるのです。

そして、周りを鬱蒼とした森と泥土に囲まれた閉鎖的な王宮は、実際の戦争などどこ吹く風で、まるでこの世ではない何処か別の世界なのです。さらに広角レンズが創り出す摩訶不思議な王宮内の極度に歪んだ空間は、そのままそこで蠢く人々の心のうちを代弁しているかのようでもあります。

なかでも印象的なのがアン女王の褥へと続く長い、長い廊下。ここは、許されたものだけが通ることのできる特別な場所。この廊下を何度も行き来するなかで、3人の人間関係が変化していくのですが、結局のところは誰も得をしないという痛み分けの世界に終わるところが何とも皮肉です。

アン女王は子供の代わりにウサギを、政治の世界に没頭するサラの代わりにアビゲイルを求めますがどちらも気休めにしかならないことを知るのですね。また、アビゲイルは自分のポジションを確たるものにするためにアン女王とサラの間でうまく立ち回ろうとするものの最後は身の程を知るという、笑

▼火花を散らすサラとアビゲイルの鳩の打ち合いが可笑しくて

ウサギちゃんを踏み潰す姿にみた人間の心の闇

この映画、「聖なる鹿殺し」の訳の分からなさに比べれば、随分と親切でわかりやすいお話たと思いました。ただ変わった作品には違いないので、好みによって賛否は大きく分かれそう。でも、私は結局のところこれは池井戸潤さんのビジネス小説のような話だなと感じながら観ておりました。

できない社長に取り入って影で経営を回しているパワハラ専務。二人の関係に気づいた上昇志向の強い成り上がり課長が、ここぞとばかりに社長に近づく一方で、コンプライアンス委員会に専務を突き出す。しかしそうは問屋が卸さないという感じ。なんだか身につまされながらの2時間でした。

しかし、3人の女優さんの演技はみものでしたね。アン女王を演じたオリビア・コールマンの貫禄は別格。そして、エマ・ストーンはえらい!「ラ・ラ・ランド」のあとで、こんなとんでもない作品を選ぶなんて。しかも今回はトップレスのシーンもあって驚きでした。やりますよねー。

可愛い彼女がだんだんと手段を選ばない悪女になっていく様がいいのですよ。ウサギちゃんを踏み潰すところは、アビゲイルの心が剥き出しになって怖かったですね。アン女王が子供のように可愛がっているウサギを踏み潰し、自分が代わりになろうとする人間の欲、心の闇。因果応報なんですけどね。

▼エマ・ストーンの悪女への変化も見どころかと思います

今年度のアカデミー賞で9部門10ノミネート。自然光や蝋燭の灯りを活かした映像、当時の英国宮殿の贅沢さや衣装の豪華さ。かすかに流れる音楽や音響の使い方など、見どころにつきません。「ファースト・マン」と比べるのもどうかと思いますが、これも映画館で見たほうが絶対にいい作品だと思います。


トシのオススメ度: 5
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