謎解きの映画ではなく、教授も刑事も出番無しのストーリー
ある地方の温泉街に近い雪山の中で一人の男性の死体が見つかります。発見者は男性の奥さん。死因は硫化水素による中毒死ということなのですが、自然現象に見せかけた殺人事件なのではないかということで、大学教授の青江と刑事の中岡による捜査が始まるのです。
この導入から、これはミステリー映画だと思いながら物語を追いかけだすわけです。つまり、最大の関心は「どういうトリックで殺害したのか」「犯人は誰で、その動機は何か」ということなのですが、映画は思わぬ展開を見せ、何だかよく分からないうちに終わりました。
そもそも本作は根本的にはミステリー映画ですらないのですね。だからよくある探偵の役割を担う人物による謎解きの場面がないのです。その点で、青江教授と中岡刑事という事件を調査する二人の主役級の人物は、存在している意味があまりないという気すらしました。
描かれていることがマンガっぽくて全く現実味がない
実はこの映画のキーパーソンは、事件を調査する青江教授と中岡刑事ではなく、甘粕という映画監督と羽原という脳神経外科医なのですね。この二人が物語の中で果たす役割は映画を観てのお楽しみですが、二人とも狂気に取りつかれて、やっていることが悪魔的なのです。
しかし、これが極めてマンガっぽくて、説得力が感じられないのが痛いですね。一応、映画の中ではアカデミックに〝論理的に説明がつく〟という形で進んでいくのではありますが、特にここで描かれている「ある能力」については全く現実味がないように感じました。
これはそもそも原作を含めて物語の中身に無理があるのか、あるいは演出や演技の問題なのか、あるいはその両方なのか。この「ある能力」の存在を疑い出したら、もうこの映画はダメですね。その瞬間に、あとは観ているのが苦痛でしかなくなってしまいます。
ジャンルを特定できない不思議な感覚の映画
この映画はミステリー映画に見えながら、近未来SF映画でもあり、サスペンス映画でもあり、恐怖・オカルト映画っぽくもあり、ジャンルを特定するのが難しいところがあります。逆に言うと、全体を通してテイストが一貫していないので、とっ散らかった感じがするのです。
ただ、ラストに豊川悦司さんが演じる映画監督の羽原が延々と独りで語る舞台的な演出の場面はなかなか圧巻でした。しかしながら、ここだけが映画全体の中で浮いてしまっていて、まるで別の映画を観ているような感じがするのですね。
その他のキャストについてですが、今回はどなたもあまり魅力を感じるキャラクターがいなかったのが残念でした。どの人物も、教授・刑事・医者といった記号的にしか描かれておらず、人間としての魅力がないというか、感情移入できるところがありませんでした。