犬猿 | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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犬猿

2017年作品/日本/103分
監督 吉田恵輔
出演 窪田正孝、新井浩文、江上敬子、筧美和子

2月25日(日)、テアトル新宿で10時10分の回を鑑賞しました。丁度、東京マラソンの日で、ランナーが靖国通りを走っているところでした。

印刷会社の営業マンとして働く真面目な青年・金山和成は、乱暴でトラブルばかり起こす兄・卓司の存在を恐れていた。そんな和成に思いを寄せる幾野由利亜は、容姿は悪いが仕事ができ、家業の印刷工場をテキパキと切り盛りしている。一方、由利亜の妹・真子は美人だけど要領が悪く、印刷工場を手伝いながら芸能活動に励んでいる。そんな相性の悪い2組の兄弟姉妹が、それまで互いに対して抱えてきた複雑な感情をついに爆発させ(以上、映画.comより抜粋)、という物語です。

私の中ではこれまでハズレというのがない吉田恵輔さんの新作「犬猿」を観てきました。兄弟あるいは姉妹がいるかいないかで感じ方が変わるのかもしれません。私には弟がいるのですが、そこも踏まえて、この作品、なかなか面白かったです。これ吉田恵輔さんのオリジナル脚本なのですね。

ヤバイことが起きてしまうのではないかという緊張感が持続

公開から時間が経っているのでお話してもよいかと思うのですが、オープニングがチョット意外なのです。私はまだ映画の予告編が続いているのかと勘違いしてしまいました。そして今度はいきなり窪田正孝さんが映ったので、映写ミスかとも。でも実はそれが大切な前振りだったのですね。

窪田正孝さん演じる和成は真面目で朴訥な感じの営業マンなのですが、彼の兄の卓司が刑期を終えて刑務所から出てくるところから話がややこしくなっていくのです。兄は和成のアパートに転がりこんで、就職先を探す活動資金を和成からふんだくり自由勝手に暮らす毎日なのです。

一方で和成はポスター印刷を発注した町の小さな印刷会社との商談に骨を折り、そのような中で兄弟の間の過去からのわだかまりやギスギス感が増していき一触即発の様相を呈してきます。しかし、その時、兄の金回りが何故かよくなり、親の借金を完済し、和成に車を買い与えようとするのです。

一体、兄の身に何がおきたのかという不安もあるのですが、そんな羽振りのよい兄の姿が、これまで地道にやってきた和成には面白くないのです。この二人の関係がどうなるのか、和成は何を考えているのか、映画は緊張感を持って進んでいき目が離せません。

▼自然体の卓司が3人を引っ掻き回します。でも、悪気はないのか?
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一番近い肉親の間に生じた嫉妬心ほど、厄介なものはない

一方で和成が足を運ぶ印刷会社の女社長である由利亜と、芸能界デビューを目指し彼女の下で働いている仕事のできない妹の真子の話が描かれていきます。由利亜にしてみると寝たきりの父に変わり会社を切り盛りする自分なのに、チャラチャラした妹が我慢ならないわけです。

おまけに妹は可愛くて周りからもチヤホヤされるのに対して、彼女自身は凄い肥満体型でしっかり者タイプなのです。そんな中で〝何で自分だけ〟という気持ちが出てくるのですね。そして彼女が営業マンの和成に魅かれたことから、この2組の兄弟・姉妹が交わって、というのが見所です。

この2組。何れも真面目にコツコツと汗水流して働いているほうが、いい加減に見える相手に嫉妬してしまうのです。弟の和成が兄の卓司に、姉の由利亜が妹の真子に対して、自分には無いものを持って成功している姿を見て、妬むわけです。そこにもまた何が起きるかわからない怖さがあります。

ややこしいのは、由利亜が恋した和成が、自分が最も疎ましく思う真子と付き合っていることが発覚してしまうこと。そうなると、もう冷静でなんかいられるわけがなくて、四人の関係はグチャグチャになって来ます。最も近い肉親の存在が、最も嫌な存在になってしまうのですから地獄です。

▼卓司と和成は昔は仲の良い兄弟だったのに、どうして?
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どこまで行っても犬猿の仲というのは変わらない、でも兄弟姉妹

この映画ではそんな犬猿の仲である2組の兄弟・姉妹が昔はとても仲が良かったことが回想で語られます。小さな時は親の加護のもとで、不自由なく同じように暮らしていたのに、大人になればなるほど周りから二人は比較対象になり、実際に違いが生まれてくるわけです。

容姿だけでなく、最終学歴や経済的な豊かさ、社会的地位など、常に二人は比べられ、いい思いや嫌な思いをするのです。そして自分が幸せになるために、相手の存在が邪魔になった時、果たして心から相手を憎み切ることができるのだろうか?というところにこの映画は切り込んでいきます。

この映画が4人の顛末をどう締めくくったか。それはここでは書けませんので、ぜひ劇場でご確認いただきたいと思います。自分の娘たちの様子を見ていると四六時中喧嘩をしているようで、兄弟・姉妹って酷いこと言い合っていても、やはり唯一無二の存在と認め合えるものではないかと思うのですが。

ドラマをずっと見ていて、兄が優秀な弟に感じることや親に対して抱く感情など共感できる場面がたくさんあり、吉田恵輔さんはよく分かっておられるなあと感じました。姉妹の関係は私は娘たちの様子からしか想像できませんが、服の貸し借りなどよく喧嘩につながるパターンですよねー。

▼由利亜と真子は昔は仲の良い姉妹だったのに、どうして?
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この映画はキャスティングが良いのですが、中でも江上敬子さんは面白かったですね。本当にこんな感じの女社長さんが下町の町工場にはおられそうです。緊張感のあるドラマに結構お笑いを提供してくれていて、その点でも彼女の起用は大成功でした。ただ、ダンスシーンは浮いてたかなあ。

あと窪田正孝さんは「東京喰種」もそうでしたが、何だか分からない狂気を孕んでいました。卓司の弟としていつどんな風に転んでもおかしくないという雰囲気が凄かったです。優しそうではあるけれども、あくまでもそれは自己防衛のためで、心の奥底では別のことを考えていそうな。

「犬猿」は、上映館数が少ないのですが、なかなか面白いですよ。ただのサスペンス、犯罪映画にはなっておらず、泣ける場面もあり、笑える場面もあり、上出来だと思うのですがー。口コミで広がるといいなと思います。

オススメ度: 4
5 必見です
4 お薦めです
3 興味があればぜひ
2 もう一つです
1 私はお薦めしません


この項、終わり。