ノクターナル・アニマルズ | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。

{ED57C418-0114-4295-9000-87E8D4C4D73F}
ノクターナル・アニマルズ

2016年作品/アメリカ/116分
監督 トム・フォード
出演 エイミー・アダムス、ジェイク・ギレンホール

11月12日(日)、TOHOシネマズシャンテのスクリーン2で、9時40分の回を鑑賞しました。

アートディーラーとして成功を収めているものの、夫との関係がうまくいかないスーザン。ある日、そんな彼女のもとに、元夫のエドワードから謎めいた小説の原稿が送られてくる。原稿を読んだスーザンは、そこに書かれた不穏な物語に次第に不安を覚えていくが(以上、映画.comより抜粋)、という物語です。

世界的なファッション・デザイナーのトム・フォードの監督作品と聞きましても、ダニエル・クレイグが演じたジェームズ・ボンドが着ていたタイトなスーツをデザインしてる人、くらいの印象しかなく、そんな素人が監督している作品ってどうなの?オシャレなだけで内容の無い作品なのでは?と思い、完全にスルーしかけていました。

こういう関係の方の映画って自己満足?というのが多いという先入観があるのですよね。ところがですね、私が読者登録させていただいている方々の評価が案外高く、〝これは観ておかねばならん〟と、有楽町まで足を運ぶことに。やはり評判がいいのですね、朝イチでしたが、けっこう埋まっておりました。

この作品、お薦めどおり観て良かったです。ファッションデザイナーだから、さぞかし美しい映画なのだろうという私の勝手な予想をひっくり返し、頭から醜悪で気分が悪くなる、けれども強烈にインパクトのある映像を見せつけられ、眠気も吹っ飛びました。それからは、片時も画面から目が離せず、最後まで一気に見終えましたよ。


現実と虚構の境が曖昧になり、知的好奇心をくすぐられながら、悪夢を見ている気分に

売れっ子の美術商であるスーザンの手元に、離婚した夫から一冊の小説の原稿が送られてきます。そのタイトルが〝ノクターナル・アニマルズ(夜の獣たち)〟。夜のハイウェイを車で走る夫婦と娘が暴漢に襲われ、為すすべがない夫の前で妻と娘は連れ去られ、レイブされたあげく殺されてしまうという陰惨なストーリー。

この小説をスーザンは引き込まれるように読み進めるのですが、明らかにその登場人物には前夫トニー自身に加えて、スーザンが投影されているのですね。トニーは、暴漢の前で何もできない夫であることは、この二人を同じジェイク・ギレンホールが演じていることでも明らかです。それではスーザンは誰なのか?

これは、スーザンとトニーの関係からしても、そしてトニーが昔からスーザンのことを〝夜の獣〟と呼んでいたことからも、暴漢たちに置き換えられているのでしょう。スーザンは、過去に自分がトニーに行った仕打ちを思い出し、彼が小説を通じて自分に復讐しようとしていることに気づくのです。

このハイウェイで事件が起きるまでのサスペンスがまたヒッチコックばりの緊張感でした。結構長い時間をかけて描かれる、ネチネチと暴漢が絡む一触即発の様子はもう鳥肌もの。最近は現実社会の道路でも進路妨害による事件が多発していますが、ほんと怖いですね。絶対に車から降りたら駄目ですねー。

▼この美しい佇まい。メガネ姿もいいです。そして小説のデザインまでもがアートのよう。
{5A185333-365B-4FDB-B755-9E278A158AED}

〝夜の獣たち〟を通じて元妻の心を鷲掴みにし、そして決定的な敗北感を味わせる

若い頃にスーザンは、母親の忠告を無視して作家志望のトニーと結婚。しかし、次第に彼に愛想をつかし、彼との子供を堕胎して、アートギャラリーを経営する強く裕福なハットンに乗り換えます。しかし、そのハットンは今は別の若い女と浮気をしているという状態で、彼女は何れにしても満たされない人生を送っているのです。

そんな気落ちした彼女のもとへ、タイミングを計ったかのように届いたのが元夫が書き上げた小説〝夜の獣たち〟。ただでさえ気持ちが落ち込んでいる時に、追い打ちをかけるかのように自分を否定してくる小説。スーザンとトニーの二人にしか分からない秘密の話、タイトルはずばり〝これは、おまえだ〟ですね。

トニーは小説の中で、妻と娘を殺した暴漢たちへの復讐を果たそうとする夫を描くのですが、その夫をサポートする警察官が現れます。トニーとスーザンが小説の中の人物に反映されているように、私はこの警察官にも現実にモデルになった人間がいたのではないかと想像しました。その人物こそが、トニーを変えたのではないかと。

小説の中に自分は知らない強い夫の姿を見たスーザン。そんな時、トニーから連絡が入り、二人は外で再会することに。〝あー、どうしよう〟と思いながらでしょうか、スーザンは彼に会うために、ドレスを選び、化粧をするのです。そしてラスト、特に刃物もピストルも出てきませんが、これは殺人に匹敵する仕打ちでしたね。

▼暴漢のリーダー格を演じたアーロン・テイラー=ジョンソン。何を考えているのやら。
{55BDABAC-92E1-46E0-8883-155EA305D81B}

美的センスにあふれた贅沢な絵作り、そして、映像で物語を繋いでいく面白さ

現在のロサンゼルス、過去のニューヨーク、小説世界のテキサスという、異なる三つの時間と場所を行き来し描かれていく物語。この入れ子構造が、映画から目が離せなくしています。また、時間と場所がどんどん変わるものの、それがシームレスに繋がっているように、前の話のラストを次の話の冒頭で受け継ぐところが面白かったです。

で、やっぱり映画全体を通じ、芸術のように完成された美術であり、そこも間違いなく見所です。しかし、そこだけが浮いた感じにはなっておらず、抑制が効いていて非常に良かったです。衣装だけでなく家具や調度品まで、隅々にわたりトム・フォードの美意識に貫かれているのでしょうが、それが映画を壊すほどには自己主張してこないのです。

私はトニーから小説が送られてきた時のスーザンと秘書の男性2人とのやり取りから、何と優雅で美しい所作であるかと目が釘付けになりました。その一方で、屋外で素っ裸でトイレ=大の方をする暴漢のリーダーを、お尻を拭くところまで描くという、どういうセンスをしているのでしょうね(褒めています)。

▼白い部屋に黒いドレスのスーザン。その胸元が艶めかしいです。でも背中の物体に目を向けるとー。
{63292D03-27D3-4EBC-ABAB-7E9EF910E20A}


トム・フォードは、「シングルマン(09)」という前作も評価が高かったのですね。こちらもレンタルして観てみようかな、と思います。トム・フォード、本当に映画監督としとも非凡なものを感じさせられました。ラストでスーザンが見せる寂寥感が本作の最大の見所で、これは今年一番印象に残ったラストシーンかもしれません。

お薦めありがとうございました。
自分の中では、もう一度、観ておきたい映画の一つですニコニコ

オススメ度: 4
5 必見
4 お薦めです
3 興味があれば
2 もう一つです
1 駄作


この項、終わり。