仕事とは面白いものです。社会人として全身全霊を傾ける

だけの価値あるものです。実際、多くの人が、仕事に人生を

賭して働いています。

 誰しも、仕事に熱中しているときは、会社を辞めたい気持ち

にはなりません。仕事に行き詰ったり、性格に合わない仕事

を命じられたときに、会社を辞めたいと思うのです。それは、

一つの責任の取り方でもあります。

 それでも、その想いの大半は実行されません。終身雇用の

考え方が後退して久しくなった現代では、私が思うほど会社

を辞めたい気持ちを抑えることはないのかもしれませんが。


 私が就職したのは、社会を見詰めるという、サラリーマンと

しては、いささか不埒な動機でした。ですから、私の、会社を

辞めたいという想いは、人一倍強かったように思います。

 最初は、20歳代で辞めるつもりでした。30歳になると、30歳

代で辞めたいと思いました。それなりに経験を積むと、50歳で

辞めたいと思いました。そして、とうとう61歳になるまで、私は

会社を辞めることができなかったのです。


 その理由は、転勤が多くて、目まぐるしく変わる仕事に魅せ

られたことです。また、結婚もして子供も生まれ、経済的責任

が重くなったこともありました。けれども、最大の理由は、この

時期に傑出した小説書けなかったことです。

 書くことを止めたわけではありませんでした。何度か、懸賞

小説や懸賞論文に応募したこともありました。それらが、入選

もせず、文学への道を切り拓けなかったことが、会社を辞める

ことができなかった元凶なのです。


 それでも、会社を辞めたいという、自分の気持ちには愛着が

あります。同じ仕事を2年も続けていると、たいてい、この気持

が頭をもたげました。飽きっぽいのでしょうか?

 上司の立場で考えると、使いにくい社員だったとも思います。

自分の感覚を優先し、頑固とも言われました。その癖、自分で

は、妥協ばかりしていたように思っています。


 辞めたい気持ちを実現して、3年以上が経ちました。復讐と

同じで、実現してみれば虚しさも味わいます。それを補うには、

次のアクションに熱中するしかないのです。