ときどき自分でも思うのです。もし、私に文学の才能が

なく、今後も思うような作品を生み出すことができないの

なら、私ほど滑稽な人生を送った者はいないと。

 もちろん、これは、誰にもある自己拡大鏡を通した見方

です。客観的に考えれば、どこにでもいそうな、身のほど

を知らない誇大妄想狂にすぎません。

 私の人生を、そのように狂わせてしまったのが、中学の

ときに、天啓だと思って綴った小説でした。今もなお懐か

しい気持ちになる物語ですが、私の人生を狂わせた魔性

の物語だったのかもしれません。


 その物語の「亡国」という表題は、自然に生まれました。

当時、母からは「縁起でもないから、別の題にすれば。」

と言われました。それでも私には、それが最適だと思えて

変えようとはしなかったのです。

 物語は、民主主義の原形だった古代ギリシアが舞台に

なりました。政治と経済を見始めていた中学生には、独裁

や金利などの不思議なエネルギーが、妙に気になったの

でした。

 民衆の暴動を扱ったのは、明らかに当時読んでいたゾラ

の「ジェルミナール」の影響でした。国を追われて荒れ地を

彷徨する主人公は、今思えば、ロールプレイングゲームの

ストーリーにもなりそうな、破天荒な人生を歩みます。


 晩生だった私には、中学時代には上手く恋愛を描くことが

できず、登場人物は男性ばかりでした。時代考証の苦労も

知らず、ただただ物語を進めることばかり考えながら、大学

ノートに書き綴っていました。

 これが、何とも愉しかったのです。すべての登場人物が、

自分の思うままに動いてくれました。これこそ、私が勘違い

をしているとすれば、その原点です。

 もう、自分で読み直す気にもなりません。新たな舞台設定

で書き直さなければなりません。ただ次回から、あらすじを

少し書き止めておきたいと思います。なにしろ、私の文学の

スタートなのですから。