私は、周りを気にすることなく、何かに夢中になること

に憧れていました。そして、それを自分の天職にしたい

と思っていました。

 同級生の中にも、私と同じように、将来の自分探しを

始めている仲間がいました。よく、語り合ったものです。

実は自分探しは今もなお続いているのですが、やはり

青春の特権に違いありません。


 ただ、どれだけ仲間と語り合っても、悶々とした状況

が解決されることはないのです。あくまでも自分探しは、

自分だけの孤独な作業なのです。

 もちろん、同じ道すがらにいる仲間との語り合いは、

とても大きな勇気を与えてくれるものです。自分を見つ

けることの困難を耐えることができるのは、それが青春

の通過儀礼であることを意識するからです。


その想いは、偶然に、電車の中で夢中になって仕事

をしている中年の男性に出会ってからは、どんどん募る

ばかりでした。ある時期には、それが私の焦りになって

いたような気さえします。

 けれども、それほど簡単に天職が見つかるはずがあり

ません。ですから、私が文学を見詰め始めたのは、溺れ

る者が藁を探すような気持だったからです。


 そのようなときに、私の中で一つの物語が浮かんでき

ました。ちょっと誇張的な表現かもしれませんが、これは、

一つの天啓のようなものだったと思います。

 その物語が、どこから、どのような形で私の胸に降臨

してきたのか、私には説明できません。最初は、とても

ぼんやりしていました。けれども、一度、物語りの筋が

えると、それは次第に膨らみ形を見せ始めたのです。