私は山国の生まれですから、子供のときは日本全体がまだそれほど豊かでなかったこともあって刺身や鮨はそれこそ高嶺の花でした。それでも父親が奮発して近所のお鮨屋さんから取り寄せた出前のお鮨は今でもその味を思い出すことができますし、家族の団欒の場でもありました。


時が過ぎて会社勤めを始め、販売会社への出向を機に日本全国に出張する機会に恵まれました。当然夜は津々浦々のおいしいものを食べ歩き、おいしいお酒もたくさん知りました。

舌が肥えた自分が時おり故郷に帰って食べる刺身や鮨はもうすでに美味く感じることができず、何故山国なのに宿やレストランでこんなまずい刺身を出すのかなんて怒りを感じたこともあります。


さて8年前にタイに来た当初、もう刺身や鮨を食べることは無いだろうと思っていましたし、実際数年間はまともなものを食べたことがありません。『なんちゃって鮨』は当時からタイにもありましたがとても食べられる代物でもありませんでした。

ところがここ数年の日本食ブームで、バンコク中心部ではまともな日本食が食べられるようになりました。タイ物価的には高いけど日本と同等価格で食べられることもあって、中間層が増えたバンコクでは日本食レストランは連日満員です。

そして刺身もタイ人の間で一般的になってきたのでしょう。スーパーでも取り扱いを始めるようになりました。一番の人気はサーモンです。残念ながらこれは日本の鮭ではなく北欧の物で、4月に日本の回転すしで食べた北欧物サーモンよりはるかにおいしくて安いです。

バンコクのスーパーで取り扱っている刺身は基本的にサーモンとマグロ、たこ(日本人しか買わない)しかありません。

しかしフジスーパーではそれ以外の刺身も販売していて、イカ、はまち、エビ、、、さすがは日本人駐在員ご用達のスーパー。それにマグロもサーモンもタイの他の高級スーパーに比べて安いので重宝しています。(マグロは解凍の仕方がよくないのかいまいち)

しかし私はタイに来てこんなまともな刺身が食べられるとは思っても見ませんでした。しかも日本と同等値価格下です。今では多くの日本食レストランが日本直送とか築地直送とうたって店の格を上げることにやっきになっていますが、そのうち現地物を使った本質的なものとに淘汰していくのでしょう。

でも、

幼い頃に親父が取ってくれたあの鮨の味は、いまでも忘れられるものではありません。