真夏の太陽の下で、生命力に満ち溢れた緑の樹海は、まさに大海原のように、ぎらぎらとうねって地平線の彼方にまで広がっている。
その樹海の淵では、森のあちらこちらに裂け目のような谷川が見える。その川に沿った小道を、五人の少年たちは進んでいる。狩人たちが大きな獲物を運ぶときのように、太い木の枝を縦、横に組み合わせた担架のような物で、少年たちも武士の大きな体を担いで運んでいる。
澪は、武士の長い太刀を抱え、その少年たちの後ろを歩きながら言った。
「三平。隠れ家は、まだ遠いの?」
「もうすぐ、あの森の向こうだ」
三平は、そう答えると、顔や体から噴き出す汗もそのままに、一番重たい武士の胴体を支えているので、また腕に力を込めて太い木の枝を担ぎ直した。
しばらく行くと、川は緩やかに湾曲していて、両岸に広い平らな川原が広がっている。その川辺の一角には、古い水車小屋が見える。水車は壊れていて動いていない。
澪は、水車小屋を指差して、三平に声を掛けた。
「あんたの秘密の隠れ家って、もしかしてあれのこと?」
三平は、武士を担いでいる肩越しに振り向いて応えた。
「あれだよ」
「なによ、秘密でも何でもないのね。あれただの水車小屋でしょ? 村の誰かが来たりしないの?」
「ずっと前に、上流で大きな谷が崩れたことがあったのを覚えてるか? あれで谷川の本流が変わったりして、今では、この辺りには誰も住んでいないし、この水車小屋にも誰も来やしない。だから、おれが隠れ家として使ってるんだ」
「ほんとに誰も来ないの?」
「近くに畑もないし、山菜や山魚を採る人も、ここらには、ほとんど来ない。来るとしたら、山犬ぐらいだ」
「それなら隠れ家として大丈夫なのね? この武士を誰にも見つけられずに隠して、ここに寝かせて置くことができるのね?」
「おまえ本気で、この侍を一人で隠して置くつもりなのか?」
「ええ、本気よ。早く寝かせてあげたいから、すぐに水車小屋の中へ運び入れてちょうだい」
「…………」
澪は、武士を担いでいる三平たち少年を追い越し、水車小屋へ近づいて行って、その入口の古く傾きかけた戸を、少し力を込めてから開け放った。