この「しりとり物語6」というテーマのBlogでは、2016年1月からスタートしたFMおたる「木曜Cheers!」内のコーナー、「しりとり物語~占い処 しりとり屋」のストーリーをご紹介して参ります。コーナーの仕組みはこちらのBlogをご参照下さい。


占い処 しりとり屋~第13話(最終話)「ずるい女」

三吉のジイさんとその友人は、どこか楽しんでいるようにも見えた。俺はその状況を少し羨ましく思いつつも、気持ちを切り替え、言霊と向き合った。

「では、参ります。」

驚くほどにすっきりと、全てが見える。

「本来の意味は、『疑わしきは被告人の利益に』、すなわち、犯罪の事実が疑いなく証明されていない状況では、被告人の利益になるように決定せよ、という刑事訴訟上の法諺(ほうげん)です。」

ひと呼吸置いて、更に続ける。

「日々の暮らしは『疑わしき』、つまり確証のない物事に溢れています。それを『罰せず』とは、否定しないという発想にも繋がります。この占いモールにおける『疑わしき』を新しいアイディア、『罰せず』を否定しない、と置き換えるならば、言霊は、奥することなく新たな道に歩み出せ、と背中を押しているのです。」

友人の男性は、満足げに微笑んでいる。ジイさんが言葉を返す。

「和彦よ。お前はそのお告げを見事に実践してくれた。」

俺は、自分自身に戻り、言霊を受け取る。

「そっか…俺、ジイさんが考えた『しりとり占い』を罰しなかったな。」
「お兄ちゃん、お告げのさなかには、気づいてなかったようじゃのう。」
「はい、ただカードの言葉を伝えていました。」
「大したもんじゃ!なあ、サンキチよ。」

すると三吉のジイさんが提案する。

「そんなお前に、ワシが大阪で考案した、新たな占いを授けよう。その名も『削り節占い』でんがな。」

俺はジイさんの目を見て、こう答えた。

「その『疑わしき』はジイさんの利益にしろよ。」
「要らんのか?」
「俺はもう少し、しりとり占いを続けたいんだ。良いだろ?」

だか、ジイさんは俺の問い掛けを無視して、既に違うことを考えているようだった。

「そうか…ということは、あっちのアイディアも罰せずか。なるほど、なるほど。」

そう呟くと、自分の店へと消えていった。

その日はしばらく、静かな時間が続いた。数時間後に現れた次に訪れたお客様は、40代前後と思われる男性だった。

「私、時間がないんです!」
「どうしましたか?」
「急遽、明日までに仕上げなければならない音源…あ、私ミュージシャンなんですけど。」
「では、少しだけ落ち着いて、言霊に委ねてみましょうか。」
「はい…お願いします。」
「この箱から1枚カードを引いてください。『縁に導かれし者よ。言霊にその定めを委ねたまえ!』。」

男性は、カードを見つめ、数秒何かを考えたかと思うと、突然立ち上がった。

「分かった!いや~!助かりました!ありがとうございました!」

俺はまだ何も伝えていないのだが、その男性はカードを放置して、店を去っていった。

「何だったんだ…?」

男性が残したカードには「ずるい女」と書かれていた。



翌朝、占いモールに到着すると、聞き覚えのない音楽が流れていた。

ずるい女と言われたの
だけど貴方が好きなのよ
どこに向かうのこの私
誰か教えてくださいな

Not For Sale
Not For Sale
売らぬと言いつつ
占い売ってます

「NFS占いモール!」

三吉のジイさんよ。あんたの「疑わしき」だけは、たまに罰するべきかもしれないな。

(おわり)

この週の採用ワード
内装工事(ないそうこうじ)


この度もご拝聴・ご拝読、誠にありがとうございました。
文字のみでは伝わりにくいエンディングかもしれませんが、実は放送の中では、最後の「聞き覚えのない音楽」を、出来上がった音楽としてお届けしました。
それはもうコミック丸出しのベッタベタな曲に仕上げました。(笑)

モールの名前は第2話に登場させており、その時点から何を意味するかは決まっていました。
しかし、まさか歌で明かす事になるとは思っておらず、この辺りが「しりとり物語」ならではの展開です。

今回の主人公は、執筆者である僕と同様、突然現れた言葉と向き合い、そこから言葉を伝える存在でした。
その意味では、今までにないパターンであり、主人公と気持ちを共有しながら歩んで来たように感じられます。
また、自己啓発本のような要素も含まれており(「自己発見室」にも近い要素はありましたが)、新たな表現のスタイルが見えた作品とも考えられます。

さて、「しりとり物語」は4月改編を乗り越え、更に続いて行くこととなりました。
第7シーズンの物語は…何とまだ白紙です!(笑)
正確には、主人公の名前を除いて白紙です。
しりとりは今までと同様ですので、来週は「じ」で始まる言葉募集です。

この乏しい情報では期待のしようもないかと存じますが、7つ目の物語も楽しみに!(笑)