この「しりとり物語6」というテーマのBlogでは、2016年1月からスタートしたFMおたる「木曜Cheers!」内のコーナー、「しりとり物語~占い処 しりとり屋」のストーリーをご紹介して参ります。コーナーの仕組みはこちらのBlogをご参照下さい。


占い処 しりとり屋~第10話「付け焼き刃(つけやきば)」

あまりにも直接的な言葉を前に、女性は言葉を失っている。俺は、少し離れた観点から切り出した。

「物事を見る際には、『全体を見る目』と『部分を見る目』のバランスが鍵を握る場合があります。」

女性の表情に、「予想外」がもたらしたと思われる変化が見て取れた。

「この『婚活』という言葉を、『全体を見る目』で捉えた場合、『結婚活動』という意味が伝わってきます。では、『部分を見る目』で捉えると、どのような意味が伝わってくるでしょう?」
「『婚』と『活』ですか?」
「そうですね。では、更にこの言葉を紐解いていきましょう。『婚』という漢字は、夫婦の縁を結ぶことを意味します。一方『活』には幅広い意味が存在します。いきいきと活動する、いきる、暮らす、自由に動く、いかす、役立てる…。」

言霊の光が少しずつ、しかし確実に、女性に降り注いでいる。

「交際や結婚のみならず、人と人とが時間や活動を共にする際には、お互いを活かし合える関係が理想的と言えるでしょう。もちろん、交際や結婚に対する考え方には、個人差や男女差が存在しています。そこに悩みや焦りが生じた時こそ、『全体と部分』、『長期と短期』、『恋と愛』のような2つの視点に立ち返る事が、心を平静な状態へと誘うのです。一見、直接的に見えるこの『婚活』という言葉は、現実を捉えながらも冷静に自分自身を見つめ直すために届いた、心の道標なのです。」

すると、こちらにも予想外の反応が返ってきた。

「占い師さん、すごいですね!」

不覚にも、「予想外がもたらしたと思われる変化」が見て取れたことだろう。ゆっくりと笑みを浮かべ、こう答えた。

「私はあくまでもお伝えする存在。すべてはあなたと言霊との出逢いです。」

日々の中には「流れ」というものが存在するように思える。この女性とのやり取りには、実はある流れの予兆が含まれていた。だが、次のお客様を迎えるまで、俺はそのことに気づいていなかった。

「お邪魔するよ~!」

年の頃は三吉のジイさんと同じくらいだろうか。

「どうぞ、こちらにお掛けください。」

年の頃のみならず、オーラがジイさんと似ている。

「お兄ちゃんが和彦君だね?」
「は…はい、そうですが…。」
「ふんふんふん…なるほど!サンキチが目を掛けているのも分からんではないな。」
「サンキチ?」
「ここを仕切っとるジイ様じゃよ。」
「三吉のジイさん…いや、三吉さんの事ですか?」
「あやつ、ここではミヨシと名乗っとるのか。」
「あの人、もしかして、サンキチさんなんですか?」
「まあ、ワシも本当のところは知らんのだがな。」

ジイさんの知り合いのようだ。雰囲気が似ているのも頷ける。

「それで、今日は占いにいらしたんですか?」

すると男性のオーラが変わった。

「お手合わせ…といったところじゃな。」

この言葉が一瞬で場の空気を変えた。男性が続ける。

「とは言っても、お兄ちゃんを試すようじゃ申し訳ない。まずはワシから手の内を明かそう。1枚、引いてくれるかな。」
「僕がここからカードを?」
「そうじゃ。特に悩みなどは言わなくて結構!これだと思うカードを1枚引くだけで構わんよ。」

「予想外」という流れが俺を飲み込む。だが、どこかワクワクするものを感じていた。

「では、このカードで。」

俺が引いた言葉は「付け焼き刃(つけやきば)」だった。

(つづく)

今週の採用ワード
馬頭観音堂(ばとうかんのんどう)