この「しりとり物語6」というテーマのBlogでは、2016年1月からスタートしたFMおたる「木曜Cheers!」内のコーナー、「しりとり物語~占い処 しりとり屋」のストーリーをご紹介して参ります。コーナーの仕組みはこちらのBlogをご参照下さい。


占い処 しりとり屋~第6話「ミミズ」

男性は真面目な表情を崩す事なく、「八百万の神」と書かれたカードを見つめている。俺は、しばしその様子を見守ると、こう切り出した。

「そのカードにもまた、神が宿っていると考えられるのではないでしょうか。」

カードに向けられていた視線が、こちらに移った。俺は落ち着いたトーンで話を続ける。

「あらゆるものに神が宿っているという考え方は、それら全てへの感謝に繋がります。住まいもその一つです。今日まであなたを守って来てくれている部屋を、今一度見渡してみてください。それぞれの場所と対話する事で、新たな場所へと旅立つ準備が出来ているのか、それともまだ今の場所で果たすべき事があるのか、きっと見えてくるはずです。」

男性はポケットから鍵を取り出した。

「そうでした。」

鍵を見つめながら、自らに言い聞かせるように続ける。

「この部屋に越して来た時の事を思い出しました。仕事でもプライベートでも、思うように行かない事が続きましてね。心機一転を願う引っ越しだったんです。」

手の中で鍵をくるりと回す。小さな金属音が響く。

「でもね…今になると思うんです。運の悪い事もありましたが、僕自身にも要因はあったんじゃないかって。いや、むしろ自分のせいにしたくなくて、運の悪さに逃げ込んでいたのかもしれません。」

その目は少しだけ、ほっとしているように見えた。人は自分自身を認めた時、重荷をひとつ下ろす。そして、その荷物が重いほど、また背負っていた時間が長いほど、開ける未来は広く明るい。

「心機一転の場所が見つかりそうですね。」

男性は鍵を握ると、言葉を返した。

「その場所はここでした。」

去り行く背中は、新たな道へと歩み出す気概に溢れているように感じられた。今日帰宅した部屋は、いつもと違って見えるのだろう。

俺自身もまた、新たな道を歩んでいる。三吉のジイさんに巻き込まれたようにも見えるが、最終的に道を選択したのは、他ならぬ自分自身だ。この先何があろうとも、ジイさんのせいにする事なく、自分の選択を全うして行こう。

だが、その決意はすぐさま、揺さぶりに掛けられる事となった。

大学受験の不安を抱えて訪れた浪人生の女の子が引いたカードは「ミミズだったのだ。

(つづく)

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