この「しりとり物語6」というテーマのBlogでは、2016年1月からスタートしたFMおたる「木曜Cheers!」内のコーナー、「しりとり物語~占い処 しりとり屋」のストーリーをご紹介して参ります。コーナーの仕組みはこちらのBlogをご参照下さい。


占い処 しりとり屋~第5話「八百万の神(やおよろずのかみ)」

女性が首をかしげながら問う。

「せどり屋って、何屋さんですか?」

危うく、「せどり屋さんです。」と答えそうになる。質問が既に答えを表していながら、答えとして成り立っていない。

「平たく言うと、転売で儲けを出すビジネス、といったところでしょうか。最近では、大型古書店で買ってきた本を、インターネットで販売するという手法が、サイドビジネスとして注目されているようです。」
「それが、私の結婚とどう関係するのでしょう…あ、もしかして、サイドビジネスで結婚資金を稼ぎなさい、とか?」

危うく、「なるほど!」と答えそうになる。確かにそれもあるのかもしれない。だが、俺の頭に浮かんだ意味は、全く別のものだった。

「そうですね。経済的な面に目を向ける事も、大切な要素でしょう。」

まずは彼女の発想をしっかりと受け、ひと呼吸置いてから言葉を続けた。

「この言葉は他にも、こんな意味をあなたに伝えています。『せどり』という言葉の語源の1つに、『背表紙を見ただけで適正な価格を見抜き、転売で儲けが出るかどうかを判断するから』、というものがあります。しかし、その域に達するためには、相当の知識と経験が必要ですよね?人との出逢いにも、似たような事が言えるのではないでしょうか。『背表紙』、つまり、相手の外見や表面上の印象だけで判断すると、後になって意外な本性を知る事になるかもしれません。あなたの元に舞い降りた『せどり屋』という言葉は、本に例えるならば『内容』、つまり、お互いの理解度を見つめ直す、という事も暗示しているのです。」

女性は何度も頷きながら、真剣に俺の話を受け取ってくれた。

「確かに私、彼の見た目も好きなんです。」
「それも立派な魅力ですよ。」
「でも、だからこそ、本当に彼の事を分かっているか、もう一度考えてみます!ありがとうございました!」

2人目のお客様も、納得した表情で店をあとにした。まだ「しりとり占い」を始めたばかりだが、「もしかすると自分には向いているかもしれない。」とさえ思うほど順調だ。

3人目のお客様は、40代くらいの男性だった。身につけているものから、ある程度の収入をお持ちのように見受けられる。

「引越しをするかどうか迷っていまして…。」

おみくじなどで言うところの「家移り(やうつり)」もまた、時折持ち込まれる悩み事だ。先ほどの女性とは異なり、落ち着いた雰囲気をまとったこの男性に、いきなり例の台詞は少々キツいだろう。

「では、この箱からカードを1枚お引きください。縁(えにし)に導かれし者よ。言霊にその定めを委ねたまえ!」
「では、これで。」
「何と書かれていますか?」
八百万の神(やおよろずのかみ)…です。」

ジイさん…いくら何でも、言霊が大き過ぎやしないか?

(つづく)

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