この「しりとり物語6」というテーマのBlogでは、2016年1月からスタートしたFMおたる「木曜Cheers!」内のコーナー、「しりとり物語~占い処 しりとり屋」のストーリーをご紹介して参ります。コーナーの仕組みはこちらのBlogをご参照下さい。


占い処 しりとり屋~第3話「癖(くせ)」

ガシャンという音を響かせ、「しりとり占い」が俺の前に姿を表した。おびただしい数の箱が、パズルゲームさながらにびっしりと収納されている。ご丁寧に「しりとり占い」という看板まで用意されているではないか。

「三吉のジイさん、本気だったんだな・・・。」

それぞれの箱には1つずつ、平仮名のシールが貼られている。どうやら、「ん」を除く全ての文字があるようだ。ロッカーから箱を取り出し、五十音順に並べていると、小さなカセットテープレコーダーが出て来た。

「古い方法を使うなぁ・・・。」

おそらく、ジイさんからのメッセージだろう。

「あ~・・・あ~・・・マイクテスト、マイクテスト・・・忠彦よ。これを聴いているという事は、『しりとり占い』を引き継ぐ決意が出来たという事だな。」

もはや、「和彦だよ。」と突っ込む気も失せている。

「今から、この占いの仕組みを説明する。そもそも言葉というものには・・・あ、はーい!今参りまーす。」

ジイさんの声が遠くなっていく。ややしばらくして、いつもの口上が聞こえた。

「ようこそ!我が占いの館へ!」

おいおい!営業時間外に用意しろよ!すると、足音が近づいてくる。

「忠彦!すまん、お客様だ。また後ほど!」

まだほとんど何も言っていないのに、なぜ最初から録り直さない・・・?少し間があって、再びジイさんが話し始めた。

「お前がロッカーを開ける前に思い浮かべた言葉の、最後の一文字が書かれた箱を用意しなさい。」

ジイさん、展開が急だな。

「その間に、私はトイレに行ってくる。」

だから、ちゃんと用意してから録音を始めろよ。

「・・・ただいま。」

知るか!

「それが始まりの箱だ。」

話の流れは覚えていたんだな。

「お前の元に訪れた迷える者に、その箱からカードを1枚引かせるのだ。言葉には魂が宿っておる。カードに書かれた言葉こそが、迷える者の道を照らすであろう。そして、この世は出逢いの繋がりだ。次に訪れた者には、しりとりで繋がる次の箱からカードを引かせなさい。以上・・・停止ボタンはどれだ・・・おお、これか・・・おっと、もう1つ忘れておった。カードを引かせる時の文言を授けよう。『縁(えにし)に導かれし者よ。言霊にその定めを委ねたまえ!』・・・と言ってカードを引かせると、それっぽい。ほな、バイなら!」

「バイなら」はともかくとして、そんな台詞を恥ずかしがらずに言えるだろうか・・・。

だが、ジイさんの言っている事にも一理ある。

「しゃあない・・・やるか・・・。」

俺は全ての荷物を自分の店に移すと、看板をかけ替え、五十音順に箱を並べ、「命の洗濯」の最後の文字である「く」と書かれた箱をテーブルに置いた。誰かに来て欲しいような、誰にも来て欲しくないような、複雑な心境で待っていると、まるで「選択の余地はない」と運命が告げたかの如く、1人目のお客様が入って来られた。

「あのぉ・・・占ってもらって良いですか・・・?」

30才前後と思われる男性だった。そりゃ「しりとり占い」などという看板を見れば、不安にもなるだろう。だが、ここで俺が臆してはならない。

「どうぞ、おかけください。」
「はい・・・。」
「大丈夫!大丈夫ですから!」
「何がでしょう?」
「あ。いや、何でもありません。」

1つの部屋に2人の男性が向かい合って座り、その間に1つの箱が佇んでいる。

「え~っと・・・今日はどういったお悩みで?」
「仕事の事なんですけど・・・転職をするか、今の職場でもう少し頑張ってみるか、悩んでいまして・・・。」

仕事は生活において大きな部分を占める存在である。同時に、悩みを抱える人も少なくない。だが、この男性の生活を、ジイさんが考え出した奇想天外な占いに託して良いものだろうか。

「あの・・・私はどうしたら・・・」

占い師の俺が悩んでどうする!腹を決めるんだ!俺は箱を差し出すと、こう告げた。

「縁(えにし)に導かれし者よ。言霊にその定めを委ねたまえ!」
「・・・私、何をすれば良いんですか?」
「あ。この箱から1枚カードを引いてください。言霊があなたの道を照らします。」

普通に説明するだけで良かったのではないのか、ジイさんよ。

「はい・・・引きました。」
「では、そのカードに書かれている言葉を読んでください。」
「・・・。」
「癖・・・ですね。」
「はい。」
俺は心の中で呟いた。

(ジイさん・・・ここから俺はどうすれば良いのですか?)

(つづく)

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