ショスタコーヴィチ:24の前奏曲とフーガ ニコラーエワ (1990) | クラシックCD 感想をひとこと

クラシックCD 感想をひとこと

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ショスタコーヴィチの時代 ㊲

ショスタコーヴィチの「24の前奏曲とフーガ」は、もちろんバッハの「平均律クラヴィーア曲集」に影響を受けた作品で、ショスタコーヴィチの、ひいては20世紀のピアノ曲の大曲の一つです。今回は、この曲の誕生に密接に関係のあったニコラーエワの演奏で鑑賞しました。

【CDについて】

作曲:ショスタコーヴィチ

曲名:24の前奏曲とフーガ(165:53)

演奏:ニコラーエワ(p)

録音:1990年9月24-27日 ロンドン

CD:CDA66441/3(レーベル:Hyperion)3CD

 

【曲と演奏について】

ショスタコーヴィチは、1950年7月に没後200年記念としてライプツィヒで開催された、第1回国際バッハ・コンクールの審査員として参加しました。この時に多くのバッハの作品に触れ、優勝したニコラーエワの演奏に深く感銘を受けたことから、この作品を作曲を思い立ちます。その構想は膨らんでいき、最終的に「平均律クラヴィーア曲集」のならって、24の調性の前奏曲とフーガという形に発展しました。

 

この曲の成立はニコラーエワと密接な関係を持っており、作曲の過程でショスタコーヴィチは1曲毎にニコラーエワに披露したと言われています。しかし、ジダーノフ批判が継続している中で、この作品の演奏と出版の許可の判定を行う作曲家同盟は、形式主義的傾向があるとして厳しい数々の批判を浴びせ、ジダーノフ批判以降、指導に従った作品を発表していたショスタコーヴィチの純音楽作品への復帰という印象もあって、許可しようとしませんでした。

 

当局より特に問題視された、15番の変ニ長調の前奏曲とフーガ。確かにこの曲は突出してショスタコーヴィチ的な曲ではあります(笑)。演奏はエリソ・ヴィルサラーゼ。

 

そのような中で、ユーディナ、ギレリス、ネイガウス、ニコラーエワたちのソ連の錚々たるピアニストたちからは絶大な支持を受け、ユーディナは作曲家同盟の議論を厳しく批判、出版の許可の出ないこの曲は、手稿譜によって広まり、ソ連の著名なピアニストたちが続々と演奏を開始します。そして、ニコラーエワは1952年に、ショスタコーヴィチの不在の間に、芸術問題委員会に直接乗り込んで演奏を披露し、当局の好意的な反応を得て、全曲演奏と出版に正式にこぎつけたのでした。

この作品は、二人だけの秘密ということで、ニコラーエワに献呈されたとのことですが、どこにも献呈文は印刷されていないとのこと。むしろ、ニコラーエワの意見も多く取り入れられており、ニコラーエワとの共作によって出来上がった作品というべきかもしれません。

 

ショスタコーヴィチの24の前奏曲とフーガは、バッハへのリスペクトやオマージュに彩られていて、政治や思想の背景やアイロニーはそれほど感じさせず、真摯な音楽への奉仕に溢れる曲となっていると思います。それは、初期作品から既に革命やスターリン時代の影響を受け続けているショスタコーヴィチの作品群の中では、逆に異彩を放っているように感じます。そのような作品の性格もあって、ソ連のピアニストたちから、今世紀の芸術の偉業として盛大に支持され演奏されていったのかもしれません。

 

内容としては、同時代のショスタコーヴィチの曲からの引用などもあって、どこかで聴いた感もたまにはあるのですが、穏やかで緻密な処理がされていて、とても聴きやすくて、内容の豊かな曲集でもあります。全部通して聴くと大仕事になってしまいますので、いくつかの曲を聴くというのもこの曲にあった楽しみ方ではないかと思いました。ニコラーエワはこの曲を4度録音していますが、それは最も基本的な解釈ということになるのでしょう。

 

最後に、最も長大な第24番ニ短調をギレリスの演奏で聴いてみましょう。

 

購入:不明、鑑賞:2024/04/07(再聴)

 

リンクは、過去のショスタコーヴィチのピアノ曲から