ショスタコーヴィチ:劇音楽「条件付の死者」プーシキンの詩による4つの歌曲他 エルダー(1992) | ~Integration and Amplification~ クラシック音楽やその他のことなど

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学生時代から断続的に聞いてきたクラシックCD。一言二言で印象を書き留めておきたい。その時の印象を大切に。
ということで始めました。
そして、好きな映画や読書なども時々付け加えて、新たな感動を求めていきたいと思います。

ショスタコーヴィチの時代 ⑯

ショスタコーヴィチは、1931年に当時ソ連で有数のエンターテイナーであったレオニード・ウチョーソフと出合いました。その結果劇音楽として作曲されたのが「条件付の死者」になります。このCDには、マクベス夫人作曲の時代から、プラウダ批判の直後までの、ショスタコーヴィチ20代後半の充実していた時代の音楽が収められています。

【CDについて】

作曲:ショスタコーヴィチ

曲名:①劇音楽「条件付の死者」op31a (39:18)

   ②プーシキンの詩による4つの歌曲(弦楽合奏版) op46b (11:58)

     (第1曲~第3曲:ショスタコーヴィチ編、第4曲:マクバーニー編)

   ③5つの断章 op42 (10:25)

   ④ジャズ組曲第1番(1934) (9:14)

演奏:エルダー指揮 バーミンガム市交響楽団 D.ハリトーノフ(Bs)②

録音:1992年12月16-18日 バーミンガム Symphony Hall

CD:88001(レーベル:UNITED)

 

【曲と演奏について】

この4曲のうち、「4つの歌曲」以外は、「ムツェンスク郡のマクベス夫人」の頃からプラウダ批判前まで。そして、「4つの歌曲」がプラウダ批判直後になります。このCDは、このライナーノーツを書き、このCDの2曲の編曲者で、ショスタコーヴィチの研究や未完の曲のオーケストレーションなども手掛けている、マクバーニーの企画によるものではないかと思います。

 

まず、「条件付の死者」は、人気エンターテイナーであり、ソビエトにおけるジャズバンドやコミカルな舞台なども手掛けている、ウチョーソフとのコラボから生まれた作品のようです。内容はおかしな軍人の訓練に関するもののようですが、社会風刺のドタバタ劇で、軍人や聖人を扱っていることが、批評家から厳しく非難され、すぐに演奏されなくなったとのこと。スコアも台本も失われたものとされていましたが、ピアノスコアが一部残っているのが発見され、管弦楽相当部分をすべてマクバーニーが再オーケストレーションしたのがこのCDとのことです。

 

曲はその作曲目的の通りで、小編成のコミカルな曲が多く、聴いたことのある有名なメロディも登場します。ショスタコーヴィチは演奏されなくなってしまった曲を捨てるのではなく、ところどころ他作品に転用しているようです。ちょうど作曲中だった「ムツェンスク郡…」に使用された部分もあるとのこと。コミカルな曲とはいっても、この時代のショスタコーヴィチの曲なのでとてもパンチが聴いていて、刺激的でした。演奏は、あっさりしたものと感じましたが、この曲を知るには貴重な録音と思います。

 

次は、「プーシキンの詩による4つの歌曲」op46です。プラウダ批判後、自らや周囲に危険が及ぶのを避けるために、1936年後半は沈黙を守っていましたが、年末の新しい年に向かうタイミングでこの曲を作曲します。20代後半の華々しく技巧を凝らした音楽とは一転したものになりました。そこには深い人間の意思が存在します。そして、この曲の作曲時の意思や音楽を散りばめつつ、交響曲第5番op47が書き上げられることとなります。この曲の第1曲復活の歌詞はいかにも作曲家の決意を感じるところです。

(以下マクバーニーによる英訳を和訳したもの)

 

1.復活
眠そうな筆を持った野蛮な芸術家、
天才の絵を真っ黒にする。
そして彼の無法な絵
無意味に落書きする。

しかし、年月が経つにつれて、塗られたものは、
古い鱗のように剥がれ落ちます。
天才の創造物が我々の前に現れる
かつての美しさのまま。

こうして妄想は消え去っていく
疲れきった魂から、
そしてその中に湧き上がる
オリジナルの純粋な日々の夢想。

 

ショスタコーヴィチがプーシキンの詩から選んだものは、絵を音楽に置き換えれば、かなり意味深ですね。

 

この曲は、ピアノとバスの歌唱で演奏されますが、のちに、第1~3曲の自筆の弦楽合奏編曲スコアが発見されました。そして、マクバーニーが第4曲をオーケストレーションした、全4曲がここに収められています。20代のショスタコーヴィチの曲とはかなり肌触りが違う曲調を感じることができます。ここから30代以降のパワーアップした大作曲家ショスタコーヴィチがスタートします。

 

「5つの断章」は、交響曲第4番の直前の曲にあたります。20代ショスタコーヴィチの管弦楽曲の集大成となる交響曲第4番へのステップとして作曲されたいくつかの断章は、短いながらも当時のエッセンスの詰まった作品になっています。それぞれ異なったタイプの短い曲で構成されており、特に第3曲のラルゴは、身を切るように冷たい感じのする、秀逸な音楽です。当時の溢れる楽想を垣間見ることができました。

 

「ジャズ組曲第1番」は、ジャズと言ってもキャバレエのダンス的な明るい音楽です。こういったタイプの音楽は、いろいろな舞台音楽に埋め込まれていて、しっかり輝いているのもショスタコーヴィチの大きな特徴と思いますが、この時代は純音楽というよりも、映画にバレエに歌劇や舞台にと、劇場に入り浸っていたことが多いでしょうから、このタイプの曲は流石にうまいと思います。楽しい曲でした。

 

【録音】

小さめの音量だと思います。どちらかというとソリッドな感じでしょうか。素直な録音だと思いますが、オーケストラの音もあっさりしたものに聞こえます。

 

【まとめ】

このCDは、あまり聴く機会のない曲が3つ入っていて、とても興味深いものでした。最初の2曲は、ヴァージョン的にはワールドプレミアです。史料価値的にも高いものだと思いますが、大粛清時代の中での音楽を伝える貴重なCDだと思います。

 

購入:1994/01/16、鑑賞:2023/11/03(再聴)