最近リリースされた新譜から ⑬
今回の新譜は、グリモーの新譜で、For Claraと題されたCDです。シューマンとブラームスの作品が収められており、クララ・シューマンに対する二人の関係を表す作品を集めたものとなっています。グリモーが追い続けてきた音楽を、最新の録音を楽しみたいと思います。
【CDについて】
作曲:シューマン
曲名:クライスレリアーナ op16 (35:34)①
作曲:ブラームス
曲名:3つの間奏曲 op117 (16:28)②
歌と歌曲(プラーテンとダウマーによる) op32 (21:15)③
演奏:グリモー(p)、クリンメル(Br)
録音:2022年6月、ポリング Kloster Polling, Bibliothekssaal ①
2022年8月、ベルリン Turbinenhalle am Stienitzsee ③
2023年3月、ハノーヴァー Tonstudio Tessmar ②
CD:486 4202 (レーベル:DG)
【曲と演奏について】
シューマンとブラームスは、クララとの関係から数々の名曲を作曲しています。クライスレリアーナは、二人の恋がクララの父から妨害されている時期のシューマンがクララに想いを込めて作曲した曲の一つで、ホフマンの音楽評論集から霊感を得て作曲されたということです。
このCDはまずクライスレリアーナから始まります。グリモーの演奏は主旋律と共に、裏の旋律や装飾音まで、すべてが輝かしく、よく目立つ演奏で、大変ゴージャスに聞こえます。ニュアンスもかなり強くつけられていると思いました。この曲はアルゲリッチの演奏で聴きなれているのですが、それとは異なる演奏スタイルで、目新しく感じました。この演奏では、いろいろな場面で、それぞれに表情がつけられていると思うので、部分によって印象が全く違う感じがします。残響も多くとって、思い入れたっぷりに弾かれていると思います。雄弁に音を響かせ、力強く迫力があり、音が横に広がってその場を満たすという感じの演奏だと思いました。
3つの間奏曲は、ブラームス晩年の名曲。シンプルな中にブラームス晩年の夢想的な楽想が詰まった曲です。クララはこの曲の存在を知り、ブラームスに手紙を書いって送ってもらったということです。第1曲は、もちろん静かに始まります。ニュアンスはよくつけられ、重めの雰囲気を醸し出しています。第2曲は、美しく哀愁を帯びた音が流れてきます。第3番は陰影を持った演奏で、静かに進んでいきます。グリモーの演奏はこの曲の雰囲気をよく描き出した、抑制的で美しい演奏と思いました。
最後に収められているのは、歌と歌曲と題されたブラームスの9曲からなる歌曲集。プラーテンとダウマーの詩による歌曲集で、初めて聴く曲集ですが、恋の歌が多いのですが、かなり力強い印象を受けました。一つ一つ聴くと、決してそういうことではないと思いますが、全体的そういった印象を受けたのは、きっと二人とも(特にグリモー)パワーがあって、雄弁な演奏をしているのかなと思います。前半は強めの歌が多く、後半は恋や失恋と諦観などが多く歌われていた気がします。
クライスレリアーナ第3曲の演奏
9つの歌と歌曲 op32 - 第1曲: 夜なかにはね起きて
グリモーにとって、シューマンやブラームス、そしてクララを巡るこれらの音楽は、ライフワークとも言える位置づけだと思います。現時点のグリモーのシューマンとブラームスの演奏が存分に楽しめるCDではないでしょうか。
購入:2023/10/14、鑑賞:2023/11/07