ショスタコーヴィチ:組曲「ミチューリン」「ベルリン陥落」「黄金の丘」セレブリエール (1990) | ~Integration and Amplification~ クラシック音楽やその他のことなど

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学生時代から断続的に聞いてきたクラシックCD。一言二言で印象を書き留めておきたい。その時の印象を大切に。
ということで始めました。
そして、好きな映画や読書なども時々付け加えて、新たな感動を求めていきたいと思います。

ショスタコーヴィチの時代 ⑮

ショスタコーヴィチの作品30は、「黄金の丘」という映画音楽になります。ショスタコーヴィチはたくさん映画音楽を作曲していますが、このCDは、その「黄金の丘」を含む映画音楽集のCDです。こういった音楽を映画を知らないで聴くのも全体像が判らず、本当のところを理解するには今ひとつかもしれませんが、ここでは、ショスタコーヴィチの音楽の一端に触れてみたいと思います。

【CDについて】

作曲:ショスタコーヴィチ

曲名:組曲「ミチューリン」op78a (30:22)

   組曲「ベルリン陥落」op82a (23:44)

   組曲「黄金の丘」op30a* (11:47)

演奏:セレブリエール指揮 ベルギー放送交響楽団、合唱団

   ゴウェンビオフスキ(org)*

録音:1990年頃

CD:60226-2-RC(レーベル:RCA、販売:BMG Music)

 

【曲と演奏について】

このCDのは、三つの映画からの音楽が組曲として収められています。「黄金の丘」が1931年の作品で、他の2つは後年の1949年の作品になります。これは、久しぶりに取り出すCDです。さて、どんな音楽だったかな…?という感じでした。

 

組曲「ミチューリン」op78a

「ミチューリン」は、1949年の映画で、ロシアの偉人の生涯を描いた伝記映画。モデルとなった、イヴァン・ヴラジーミロヴィッチ・ミチューリンは、ロシアの生物学者・農学者で、果樹の品種改良を科学的に行なった人物です。ロシア革命後政府に認められ、ロシアの気候風土に適した300種以上の品種を作り出したということです。この映画では、その英雄的な生涯を描き出しています。

 

こういった、農学者の伝記映画といったものなので、音楽はどちらかと言えば穏やかな雰囲気となっています。映画では合唱で演奏される部分もあるようですが、組曲は管弦楽が主体で、フィナーレのみ合唱が入ります。一部には、ショスタコーヴィチの交響曲を思わせるようなところもないではないですが、全体的に牧歌的な基調。明るくシンプルな楽しい曲が続きました。そして、華々しい合唱付きのはフィナーレで曲を閉じました。映画音楽をたくさん手掛けたショスタコーヴィチの職人的作品という感じでした。

 

組曲「ベルリン陥落」op82a

スターリンが神格化された1949年の映画で、スターリンがナチス・ドイツを破った最大の功労者として描かれている作品です。この映画は、スターリン批判以降はソ連国内でも上映されることがほとんどなくなったようです。

アリョーシャは、優秀な工場労働者でレーニン勲章を授与されることになり、アリョーシャを讃える演説を担当した教諭のナターシャと惹かれあいます。ところが独ソ戦が勃発し、ナターシャがドイツに連れ去られると、アリョーシャは赤軍に参加。ナターシャを取り戻すため戦います。スターリングラード攻防戦を経て、ベルリンに進撃。スターリンは英米よりも先にベルリンを制圧するように指示。総攻撃の前にヒトラーも自殺し、アリョーシャの部隊は国会議事堂に突入、勝利を宣言します。ベルリンに現れたスターリンは大歓迎を受け、そこで再会したアリョーシャとナターシャはスターリンの前に進み出て、スターリンの栄光を称えるのでした。
 

音楽の方は、大河ドラマが始まるぞといった感じの合唱付き序曲で開始されました。そして、静かな川辺の音楽の後は、攻撃シーン。ここは短いですが、交響曲の一部のような雰囲気があります。再び静かでシンプルな曲の後、攻撃シーンが再開されます。そして、破壊された村の情景。暗い基調の弦楽で始まり、ゆっくりと盛り上がっていきます。地下鉄でのチェイス。ここでも交響曲のスケルツォに出てきそうな音楽が現れます。そして序曲と同様の華々しい合唱で曲を閉じます。

戦争を描いた作品なので、ショスタコーヴィチの得意分野かと思いますが、そこは映画音楽ということで、モチーフこそ他の交響曲のような雰囲気はあるものの、交響曲で見るような深刻な重苦しさまでは描いていないように思いました。あまり深刻に描くと、スターリン神格化の趣旨を損いかねないですね…。

 

組曲「黄金の丘」op30a
これは、1931年の映画で、作曲時期は「ムツェンスク郡のマクベス夫人」と同時期にあたります。レニングラードの工場での反戦ストライキを描いたプロレタリア映画です。貧しい村から出てきた若者が、ボリシェヴィキによるストライキのただ中にある冶金工場に代替労働者として雇われ、実業家の息子が、世間知らずのこの若者を巻き込んでストライキの首謀者を殺害しようと企てますが…というお話。

 

このCDは組曲6曲中4曲が演奏された形になっています。作曲のタイミングは、ショスタコーヴィチが次々と斬新な作品を生み出していた時期。映画音楽においても先鋭さは変わりませんでした。この感触は、このCDの他の2曲とは一線を画すものがありました。創作のパワーが違います。冒頭は、チャイコフスキーの4番のファンファーレに似た開始で、その後鋭い音楽を展開します。2曲目は、オルガン独奏に管弦楽が絡むフーガで、大変独創的なものでした。このCD全体を通してもいちばんの聴きどころでした。そして、葬送行進曲、フィナーレと続きます。諧謔的でもあり、最後はこの時代の先鋭的なショスタコーヴィチの流儀で力強く締められました。

 

3曲を通して聴いてみると、1930年前後のショスタコーヴィチが、いかに充実した活動を展開していたかが、わかる様な気がしました。

 

【録音】

優秀な録音だと思います。

 

【まとめ】

今回は、映画音楽3曲というCDでした。「黄金の丘」に見る、プラウダ批判前夜の勢いのある作品は、この時期のショスタコーヴィチを象徴するものと思います。まだまだ1930年代の作品が続きます。

 

購入:1993/10/24、鑑賞:2023/11/01(再聴)