その日は、長い一日だった。

まだ、薄暗いうちに目が覚めた。

真奈は部屋のカーテンをいっぱいに開けた。

夏の朝が始まろうとしていた。

遠くの町並みのシルエットの向こうにオレンジ色を薄めたような美しく優しい光を予感させるわずかな明るさが見えた。

(今日は晴れだわ。よかった。)

まだ朝早い集合住宅だ。

真奈は窓をカラカラと静かに開けた。

朝の空気は清清しく、気持ち良かった。

真奈は幸せだと思った。気がつくとひとりでに笑みを浮かべているのだった。

米をといで、ご飯を炊いた。

2人分のお弁当を作った。

人のために弁当を作ることがそれだけで嬉しいなんて真奈は初めて知った。

家族と一緒の時はいつもご飯を作ることが真奈の仕事のようになっていたので、(なんで、あたしばかり…)そんな不満な気持ちで作っていた。

真奈は、蒲池がどんな顔をして食べてくれるだろうかと想像するだけで幸せだった。

おいしいと言ってくれるだろうか。

気に入ってもらえるだろうか。

時間は瞬く間に過ぎていった。

気がつくともうすっかり夜が明けていた。

窓の外では、小鳥の囀りや、人が行き来する音、車の音などが聞こえていた。

後、1時間くらいすると蒲池が迎えに来るはずだった。

「急がないと…」

真奈は冷ましておいたおかずを、次々詰め合わせた。

全部詰め終わって、あまったおかずで朝食をとった。

コーヒーを淹れた。

おいしいと思った。蒲池は今頃どうしているだろうと思う。

蒲池を思うだけで、胸の辺りが暖かった。

幸せな気持ちで満たされていて、人生までも楽しくなるから不思議だった。

ケイタイがなった。

蒲池からだった。

そろそろ着くという。

真奈は自分の声が上ずっているようでおかしかった。

蒲池は変に思わなかっただろうか。

 

海に着いたのは11時を回っていた。

蒲池の車で初めての遠出だった。

まだ夏は始まったばかりだというのに、海岸には結構人出があった。

真奈たちのように、恋人同士と思われるカップルがいた。

ふと(私たちって恋人なの?)という疑問が浮かんだ。

恋人の定義はいったい何だろう。

私たちみたいな者同士でも恋人といえるのだろうか。

真奈は、蒲池に訊いてみたいという気持ちがあった。

でも訊けなかった。怖かったのだ。

「恋人?なんで?僕たち恋人って呼ばれるような、何もしてないじゃないか。」

そう言われるのを想像して訊けなかった。

二人は海辺を歩き、貝を拾い、潮風に吹かれて見詰め合った。

蒲池はズボンの裾をまくり、海水の中に足を入れた。

「君もおいでよ。」

真奈は裸足で蒲池の後を追った。

海水は冷たかった。

真奈はスカートの裾をぬらしはしないかと足元に気を取られていた。

たまに大きな波が寄せて来る。

「明日も休みだね。ゆっくり出来るね。」

蒲池は振り向いた。

「今夜、泊まろうか。」

蒲池はそういったようだ。

真奈の心臓がキュッと縮まったような気がした。

誰かに今の蒲池の言葉を聞かれはしなかったかと思わず辺りを見回した。


今日はここまで 続く






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すみません。

先日、間違ってこの記事を書きかけでコメント欄を閉じずにUPしてしまいました。

「下書き」にするつもりでした。

そしてコメントが入ってしまいましたが、有難く読ませていただきました。

保存してありますが、コメント欄は閉じさせていただきました。

私の不注意で申し訳ありません。