直美は、自分に異変が起こっているのに気付いた。

頭の痛みは少し治まった。しかし、直美の心に今まで訪れたことのない不安が広がった。

家族の誰がこの不安をわかってくれるというのだろう。

今までだったら一番の理解者だった華子の心は、このところ直美の方なんて向いていなかった。

しかしあとの男共の誰にも助けを求められないのはわかりきっていた。

湧き起こる不安を胸に、直美は着替えを始めた。

行き着けの 病院に電話で予約をいれ、濡れた衣服を脱ぎ捨てた。

ひょっとしたら、重大なことかも知れないなと、思いながら、脱ぎ着のしやすい洋服に着替える。

夫に対して、よからぬ考えを抱いた、そのせいなのだろうかという考えが頭を掠める。

いやいや、今までの夫の仕打ちに対して、私の楽しみなんて、微々たることではないのか。

それなのに胸の中に広がる不安はどんどん大きくなっていくばかりだった。

一応ケイタイも持とうと思ったが、行き先が病院ということもあって,もっては行かないことにした。

直美は家族の誰と連絡を取るともなく、タクシーに乗り込んだ。

どうせ、夜までには帰るだろうと思っていたので、軽く考えていた。


その夜、高畑家に一番 早く帰ってきたのは、紀夫だった。

車で送ってもらい、門のちょっと手前でおろしてもらう。

「いや、すまんね。何時もな。。。明日は、ちょっと遅めに出社するから、そうだな、お昼。いや11時頃、ここに車回しておいてくれるかな。。。」

紀夫は、この年になるまで、浮気の一つもしたこともなかった。

一生懸命働いているし、直美のことを愛してもいる。 

直美は俺という人間と一緒になって幸せ者だろうと思う。

よその女に現を抜かすでもなく、たくさん働いてお金を運んでくる。

直美が幸せなら、俺だって嬉しいなどとやにさがりながらふと家を見ると、全体的に暗いではないか。

(直美のヤツ、珍しいな。。。いつもは俺を待っているのに、なんだか暗いよ、おい!)

酔った頭で、寝室のあるだろう二階を睨みながら紀夫は前後に揺れて立っていた。

鍵はここだったよなと、暗闇の中の植木鉢の底から合鍵を取り出して、ドアをあけた。いつもは直美が開けてくれるのだ。

中へ入ると、人気もない空間は空気がよどんでいるように感じられた。

電気をつけて、声をかけてみる。

「お~~い、おい、返事しろよな、寝てるのか~~」

寝ていたら、大声でなんて起こして欲しくないのを、紀夫は全く理解していなかった。

まさか、直美の体に異変が起きていたなんて、ましてや入院するくらい重大なことだったなんて、考えもしなかった。

酔った、紀夫は、ふと留守電の「用件」のところが点滅しているのを見つけた。

今日はここまで 続く

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淋しんぼう


♪夕暮れの街で

 歩道橋の上で

 流される人を

 ぼんやり見てた


 やせこけた街路樹に

 頬ずりする野良猫

 何にも信じられないままで

 泣いてた 君は

 淋しんぼう


………………   ♪