いつもは、役所勤めの太郎はキッチリほぼ同じ時間に帰ってくる。

しかし、その日は寿退社の、同僚のお別れ会で、太郎はかなり遅くなるということだった。

直美は大勢でお酒を呑む席に身を置くことなんかここ何十年もないなぁと思った。

直美は、紀夫と結婚してから、自分の身の周りには潤いに欠けることしか起こらなかったように思えるのだ。

楽しいこととか、心浮き立つような新婚時代なんて何処の世界の話だろうか。

夫に細やかに愛された記憶など皆無だった。

直美はこれから自分の計画を夫に話す日を本当に心待ちにしていた。

その日が来て、この縦のものを横にもしない夫の慌てふためく様を見たら…と思うと、直美は心が躍るような新鮮な気持ちになるのだった。

その日のためにひたすら、夫に従ってきたのだ。

それを告げたら紀夫は一体どんな反応を示すのだろうか。

直美よ、そのときを待つのだ。直美はそのときを思うと、自然と笑みがこぼれるのだった

夫は今日も帰りが遅いのだろうかと思う。もう、寂しさなんてない。 

新婚の頃初めはこんな夫でも帰りが遅いと不安に思い、早く帰って欲しいなんて願ったものだった。そのうち、直美も、子の世話に追われ、寂しがってなんていられないほど子供たちにも振り回された。

だんだん、そんな子供たちも大人になって、直美の元を離れていった。

次郎は仕事でいつも夜遅い。

次郎は中学校で担任を持っていて、その上、部活は運動部だったので、学校で生活する時間の方が長かった。

華子も、この頃は、彼氏の自宅にお邪魔することが多くて滅多に家に寄り付かないのだった。

昔なら寂しいはずなのだが直美は、一人の時間が今はとても嬉しかった。

そろそろ、どの辺にお店を開くか等、具体的なことを決めて行かなければならない。

好みの食器のカタログなどを眺めて空想するのが、この頃の直美の一人の時間の過ごし方だった。

日中は、晴れ渡っていた空も夕方になると、にわかにかき曇ってきて、遠雷が微かに…と耳を澄ますうちにポツポツと大粒の雨が落ちてきた。

「いけない、いけない。洗濯物…」

直美は二階に駆け上がった。

ベランダの洗濯物を取り込まなければと思い、一歩踏み出した時、激しい頭痛に襲われた。

今まで感じたことのない激しい痛みだった。同時に、こみ上げるものがあって、直美はしゃがみこみ、嘔吐を繰り返した。

直美の肩を大粒の雨が着実に濡らしていく。

雨音は一層激しさを増しているようだった。


今日はここまで 続く

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常夜灯




♪街角に立って 口笛吹いてくれよ

 夜のパズルに迷いこまないように

 答えはいつだって 未来を照らしている

 星に手が届く 筈もないのに


 やりたいようにやっていいんだよ

 悲しいぐらいでちょうどいいんだよ


 どこまでも続いてるまっすぐなこの道

 たどりついた先には光が待っているようだ

 腹ペコになって吠えてる心よ 走り出してくれよ!

 今よりもう少しいい夢をみせて


 ………………   ♪