高畑直美のことを、誰も悪く言うものはいなかった。
人あたりもよく、旦那様を立てて、料理の腕も素晴らしい。
美人であり、性格も大変よく近所でも評判の奥さんだった。
高畑紀夫は自分の妻を褒められるのがとても心地よかった。まるで自分が褒められているようだった。
紀夫は、働くことが趣味のようによく働いた。
家のことも、子供の世話もみんな妻が宜しくやってくれていた。
時には、妻が何か相談したそうな素振りを見せることもあった。しかし「家のことはあんたにおまかせ」っていう約束だったじゃないかとちょっと渋い顔でもしてやりゃ、何か物言いたそうな妻は口を噤む。
それでいい、くだらないことを俺の耳に入れるものではない。
紀夫は、女というものは最初のしつけが肝心だと考えていた。
甘い顔をするものではないと、先輩がよく言っていた。最初をきちっとしておけば後はかなり楽に運ぶと教わりその姿勢を崩さなかった。
しかし、紀夫は、心の中では、直美は自慢の妻だったし、とても感謝していた。
それなのに、心の中でそう思っていても、どうしても気恥ずかしくてそんなことを口に出せなかった。
誤解を招きやすいこの紀夫の態度も、多分妻だけはわかってくれていると思っていた。
夫婦なのだ。以心伝心という言葉がある。アレだ。
言葉で、言わなきゃわからないなんて本物の夫婦といえないだろう。
目を見ただけで、息遣いを聴いただけで何を考えているかわかるのが夫婦というものだろう。
「おい、あれ。うん、あれだ。」
紀夫の口癖だった。
みんなが出かけてしまうと直美はグッと伸びをする。
お茶を飲んで、茶碗を洗い、掃除、洗濯と一通りこなして、今度はゆっくりとコーヒーを飲む。
「さて。。。今日のつもりは、いっくらかな~♪」
キッチンから椅子を運んで、押入れの前に運んでいった。
直美は押入れの、天井裏に通じる板をソット開ける。
僅かの誇り臭い匂いが鼻をつく。
手探りで、奥の方に手を差し込んでみる。缶の金目の感触が今日も直美を安堵させる。
「あった、あった。」
奥から、大きめのクッキーの缶を引き寄せる。
直美は、こうして夫に傅いているが、実は大変な楽しみがあったのだ。
もちろん、このクッキーの缶の中身もそうではあるが、これだけではなかった。もっと壮大な心躍るようなたくらみがあった。
今日はここまで 続く
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3・ターンテーブル
♪椅子がそこにあるから
すわろうとしただけ
ちょっと休んで
ちょっと見渡して
また歩き出すつもり
地球が早く回る
僕は年をとってく
ちょっと迷って
ちゃんとしてなくて
目が回ってるみたいだ
ビルの屋上に 舞い降りてきた
神様が さみしそうに
踊ってるよ
.........