胸に抱いた大きな花束を13の君は私に渡し、そして右手を差し出した。私も、(これで見ていてあげることは出来なくなるね)と心でおもいながら右手を差し出した。私の差し出した手を強く握り返してきて、君の手は私にありがとうといっていると感じていた。
記憶…… 君の記憶
抱き締められた記憶も、
おっぱいをおしながら乳を飲んだことも、
慈愛に満ちた顔を間近に見た記憶も
心地よい声も
目をしっかり見つめられての信頼関係も
何もないことを知ったときの驚き
何もいわなくても暗い目が私に何を求めているのかわかった
いつも見つめて
いつも私の視線を捜して捉えて
そしてそして
信頼の1年は過ぎた
私たちは約束があった。15までそれは正確に守られた。私は、離れたところから見守っていた。
言葉は殆ど交わすことはなかったけれどずっと成長を見守っていた。。。
偶然があった。遠出の帰りの列車に、君たちが乗り込んできた。隣りにかけた君は1時間半、近況を喋りまくった。これからについて話した。そして目標が出来て、やがてそれに向かい頑張りを見せる君がいた。
私にあの人の歌を教えてくれたのが君、君は私の師匠。
偶然があった。
コンサートは、別々に申し込んだのに 隣りの席だった。
最前列の私たちは、夢のような2時間に酔いしれて。。。
凡人…凡人で玉置さんが目の前にせり出してきて
たのしかったね。心が震えたね。。。君の暗かった目が、輝いて私はもう君に手を貸さなくてもいいとさえ思っていた。
ところが世の中だ。せっかく決まった就職が、事情でダメになってしまった。
アルバイトの日々。。。アルバイトは3年半に及んだ。
少年は、おとなになった。
恋に身を焦がし、苦しい胸の内を私に話す。私のアドバイスは君の慰めにはなったのだろうけれど、解決にはならなかったね。
目標をみうしなって、顔つきも暗くなって。
でも家人には話さないことも私には話してくれたね。
とつぜん、暗くて長いただれたトンネルは終わりを告げたことを知ったのは、私が遠くT 市に滞在している時だった。
頑張ったね。がんばったね。さすが私の師匠だよ。
おめでとう!
君は飛び立つ。28日には、いよいよお別れなんだ。
電話の明るい声。私の知っている少年の君の声。
「おめでとう!よかったね」
「はい、ありがとうございます。」
私が見せて貰った10年間の君の成長。
少しは代わりになったかい?
そう聞きたいのを我慢する。口にしなくても伝わることもある。
今度は、私が花束を贈ろう。
今度は返品にならないでね。
もう、見守らないからね。。。
メンタルな面も克服できるだろうからね。
立派な社会人になって下さいね。