「おい、お~い」
高畑紀夫は、トイレにいた。
(まったく、直美のヤツけしからん。何で、紙切らしてやがるんだ)
紙がないと非常に困る。なかなかやってこない妻に苛立ちはつのる。
「お~い、紙がない~、紙つけとけよ~。何処行ったんだ~、まったく。」
もし来なかったらどうしようとためしに腰を浮かしかけた。そのとき、ようやく庭に出ていたらしい直美がやってきた。
「あら、ごめんなさいね。紙がついてなかったんですか。すみませんね。そこの収納の中に在庫がありますでしょう。おとうさんったらご自分じゃ何にもおできにならないんでしょうね。私が倒れたりしたらどうなさるのでしょう。」
おっとりと、直美は答えて笑っている。
「つけてくれ」
高畑紀夫は大いばりで、そういった。
はいと答えてなおみは トイレットペーパーを出して取り付けた。
いつもこうである。
それでも、直美は口答え一つするでなく、紀夫の世話を焼く。
結婚当初からそうだった。
直美を名前でなんて絶対呼んではくれないのだ。
このうちで直美は通称「おい」だった。紀夫はこれで、28年も通してきた。
紀夫はトイレから出ると、食卓に直行だ。
デンと座ってもう動かない。
忙しく朝餉の支度をする妻に、紀夫は言いつける。
「おい、新聞は?さっき庭にいたんじゃないのか?何でついでにっていう考えが浮かばんのかね。全く、これだから頭の悪い女はいただけないんだ。」
などと文句を言う始末。それでも、直美はハイハイと、朝餉の支度の手を止めて新聞を取りに行く。
そうこうしているうちに長男、次男が起きだしてくる。
二人とももう大人だが外食は金がかかり過ぎるといって弁当を持っていく。
だから、夫の弁当と、息子二人三人分の弁当を週五日セッセと作ることになる。
まるで、高畑家には3人の大きな子供がいるようにさえ思えるのだった。
それでも、末の子供は女の子であり、直美は、この子を産んでおいてよかったと思っていた。
男の子はかなり手がかかって、その上夫のお世話があったので、直美は三人目が出来た時、紀夫に内緒で堕胎しようと考えた。
三人目が男の子だったら大変なことになると思ったからだ。
そう決心した直美は産婦人科に足を運んだその日、一緒に受診した産婦人科のお客の連れている女の子があまりに可愛いので、堕胎するのを思いとどまったのである。
よかった。真奈美は、女の気持ちがわかってくれる。
今では、高畑家において真奈美が直美の一番の理解者だった。

今日はここまで 続く

ニセモノ/玉置浩二
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今回からアルバムの歌詞を紹介していきます。。。ちょっとね( ´艸`)




凡人


裸になりゃ 文句はありません

値打ちがあるなら 見張って

お腹がすいてちゃ やれません

ひとりで今夜も 

カッカッカッカッカッカッして


天国で 踊り狂って

落っこちて 雲にまじって...