2010年版から2019年版までの「私の東大合格作戦」の執筆者の出身校を、登場回数の多い順に並べると以下のようになる:

13:江戸川学園取手
6:弘学館
4:栄光、開智
3:巣鴨、茗渓、海城、山形東、仙台第二、麻布、灘、青雲
2:桐朋、金沢大学附属、岡崎

このように江戸川学園取手高校が群を抜いている。2位の弘学館の二倍以上であり、ここだけで一冊まとめられるくらいである。江戸取(えどとり)というのが愛称らしいので、ここでもそう呼ぶのをお許しいただきたい。
江戸取は2012年版に3人まとめて登場し、以降、2013年版は2人、2014年版も2人、2015年版には登場しないが、2016年版には2人、2017年版には3人、2018年版には1人登場する。なお、これ以後は2023年版まで現れない。また、2012年版以前については、網羅的な調査ではないため断言できないが、目立った登場は確認されていない。
ここまで頻繁に出てくると江戸取について知りたくなる。創立は1978年と歴史は浅いのであるが、1980年の夏、創立3年目で甲子園に出場するという快挙を成し遂げた。次のブログを参照されたい。
☆一度だけの甲子園? 取手市近隣高校親善野球大会観戦記~江戸川学園取手~| 鶴丸 深志’のブログ - LaBOLA

江戸取は1987年に初の東大合格者を輩出し、1996年から2016年まではほぼ毎年二桁の東大合格者を出していたのであるが、2017年からは一桁に戻っている。どうして2010年代の「私の東大合格作戦」に突如として頻繁に現れるようになったのかは、よく分からない(もし単なる宣伝目的であれば、1996年以降の二桁合格者時代から登場していてもおかしくないはずである)。
一般に、厳しい受験指導を売りにする高校からの東大合格者の合格体験記は、読み手にどのような印象を与えるのであろうか。上記の出身校リストの中で、麻布と灘は伝統的な進学校であるが、これらは「自由な」校風を売りにしている。しかし、江戸取や弘学館、開智などの新興進学校は、受験実績を高めるため厳しい受験指導を売りにせざるを得ない。しかし、そうした指導を受験体験記に書かれると、そこまでして東大に行く意味はあるのだろうかという疑問を読者に抱かせる可能性がある。しかし、江戸取の合格体験記からは、厳しい受験指導の印象はあまり感じられない。それを感じるのは、むしろ弘学館や開智などの合格体験記であろう。
江戸取からの東大進学者には明るい未来を切り開いた人が少なくない。例えば、形成外科医、華僑としてコンサルタントを務めつつ獣医師免許を取得した人、中央大学の助教、デジタル庁勤務者などがいる。彼らの成功は、江戸取の教育の質を示す一方で、家庭環境や本人の資質も大きく影響していると考えられる。進学校での学びが土台となるが、最終的に成功を左右するのは、個々の資質や実家の「太さ」かもしれない。